008 正太郎 side

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008 正太郎 side

「諸君。君たちは我が光南中学校に入学して1か月、中学生生活を順調に慣れ親しんできたことだろう。そして半月前には身近となる班に加わってグループ活動にもある程度の勤しみをえた頃だとは思う」 金曜日の午後のオリエンテーションの時間に、国谷先生はいつものように教壇の壇上から高説を語り始めていた。最初の5分間は退屈な話になるので、この時間を仕方がなさそうに生徒たちは聞いていた。 「この班の活動をさらに高次元で昇華させたくはないか。そして君たちの要望にピッタリと合ったイベントが喜ばしいことに用意されている。来月に行われる予定の、クラス対抗になるドッジボール大会だ」 国谷先生のその発言にはたちまちのうちに、クラス中からワァッと歓声や拍手が上がった。予想通りの反応を見た国谷先生はご満悦の表情でさらに話を続けた。 「喜んでもらえて何よりだ。この大会は班毎のクラス総当たり戦をやる。すなわち班の結集力の集大成がここに現れるぞ。このオリエンテーションの時間は、今日からはドッジボールの練習をすることにするぞ。もちろんやるからにはドッジボール大会の学年優勝を目指すからな!」 「ウヒョーやった! ドッジボールは大好きだぜ」、「ワクワクするな」「私は運動神経がないから苦手だけど頑張る」、「次の時間は体育だろ、着替えしないでそのまま受けるのかな? とてもつかれそー」 この後は国谷先生の指示に従って空きの教室に移動して体操着に着替えをしてから15分後。国谷先生はいつものベージュ色をしたジャージ姿に、頭には鉢巻きをつけて校庭で生徒たちを待っていた。その鉢巻きには“必勝”などと書かれている。 「皆んな揃っているな。この時間は普段のお前たちの班のチームワークが物をいう。ここで班同士の練習試合をして良いところと悪いところを、それぞれアドバイスしてもらおうといった授業だ。まず1班と2班、呼ばれた班員はそれぞれ前に出ろ」 こうして第1班の男子は黒田くん、山崎くん、石城くん(俺)、女子は向原さん、市山さん、小沼さんが前に進み出た。相手の第2班は男子が岡部くん、門脇くん、佐々木くん、女子は伊藤さん、藤見さん、小保内さんだ。 「まずはチーム編成をするための猶予時間を与える。外側2人と内側4人の配置を決めるための時間だ。5分間やるから決めておくように」 「僕は外側にいるよ。運動神経は良くはないからね。それじゃあとは自由に決めていいよ」 黒田はそれだけを言うとサッサと白線の外側に立ち去ってしまった。班長にやる気がなく早々に抜けてしまったので、副班長の向原に自然と視線が集まっていた。 「黒田班長が抜けてしまったのでこの後は私が代理で。男子が外に一人出てしまったので、これ以上の男子は割けないと思うの。なので女子も1人外側に行くわ。小沼さんがそちらに行ってくれるかしら?」 コクン、と頷いた小沼は黒田の後を追って白線の外側へと歩いていった。 「それじゃ、適当に散って試合をしましょう」 向原はそう言って、市山と共に白線の内側へと歩き出した。歩く向原を見るからにこちらもやる気がないようだった。対戦相手になった第2班の岡部たちを見ると、こちらは円陣を組んでまだ作戦の会議中だ。しばらくしてエイエイオーと、味方を鼓舞した勇ましい掛け声が上がっていた。 「し合うまでもないよな。うちの班じゃ士気を比べてみても、もう終わってるだろ」 「まあまあお遊びなんだしさ、いいんじゃないの。授業も潰れてくれて助かるじゃん」 俺と山崎はそう軽口を言ってから白線の内側に踏み入った。2つのチームがそれぞれ整い終えたのを見て国谷先生はニヤリとした。 「おおっと。これは失念していたな、お前らに始める前に言っておくことがある。これからは毎週に1番最下位となった班には罰ゲームがあるぞ。次のレクリエーションの日まで、放課後にはトイレ掃除のご褒美付きだ。やる気のない班に容赦はしないからな。それでは始める!」 「ええ! そんなこと聞いてない!」、「そういうことはもっと先に言ってよ!」 黒田と向原からは口々に抗議の声が上がるがもう後の祭りで時すでに遅しだった。 ピリピリ、ピッピー 試合開始の合図となるホイッスルの音が無常にもこうして響き渡った。 ☆ 「流石は試合の前からチームワークの取れていた岡部たちの班だな。3戦3勝か」 「いやあ、たまたまに運が良かっただけだよ。うちもこれから精進をしないとね」 「それな。即席チームとは思えなかった活躍だったわよ」 「ドッジボール大会の優勝はもういただいたも同然か、、、ただし最下位の第一班が足を引っ張らなければの話だけど」 どよーーん。 クラス内でチヤホヤとされている第2班と比べて、俺たちの第1班は皆がひどく沈んでいた。 「放課後に反省会をやるので集まってください」 そういってきたのは黒田だった。
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