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009 正太郎 side
「オイ黒田。これはどういうことなんだ、答えろよ」
「なんだ石城。いまはこうして反省会を開いているところだろう?」
「あのなあ。なんでカラオケ店の個室の中で、わざわざ反省会をやらなきゃいけないのかと、俺は聞いているんだぁあぁ!!」
口から飛び出た高周波のキンキンとした大きな声が黒田と山崎を同時に襲う。果たして黒田は予期していたかのように耳を手で押さえていた。
クワーン、クワーン。
「ぐっはあぁ。あ、頭の中が、ううキンキンとするぅ。石城の大声は殺人兵器に匹敵するぞ。ゔああっ、まだ頭がくらくらとしてる(トントン)。俺の鼓膜が破けちまったかと心配したぜ」
「ごめんな、山崎」
山崎は耳を塞がなかったので俺の超音波攻撃をモロに受けていた。大声をわざと向けていたはずの肝心の黒田はノーダメージだった。チッ。
「お前との付き合いは小学校のころ以来からだ。大声を出すことはすでに想定済みだよ。さて話を元に戻しておこう。カラオケ店で反省会をするのは、お前のお母さんから17時までの制限付きで、カラオケの個室を無料で使用してもいいと以前に許可が取れているからだ。だからここで反省会をしている。それが答えだ」
「むむ、たしかにカラオケ店なんてものは今の時間とても暇になるけどな。けど、お前にはもうひとつ聞くことがある。この反省会に集まっているのは、なぜ男子の3人なんだ?」
「男子3人の反省会に、なにかおかしな点でもあるのか?」
「あのな黒田。それじゃ反省会をやる意味がナクないか。反省会をするなら班の全員を呼び集めるべきだろ」
「あちらは女子側だぞ。この第1班では男女別での責任者を置いている。だからこの反省会は間違ってないだろ?」
黒田はやれわからんといったふうに、今度は頭をもたげた。俺はため息をついて、
「ドッジボール大会のルールでは、片側のグループは何人になっているんだ?」
「6人だろ」
「そうだ。6人で1つのチームだということだよ。男女2つのグループに分かれているのではこの反省会はまるで意味がないもんだろ。だいたいポジションでさえまともに決められないじゃないか」
実は男女2つどころか、女子側は一つにさえまとまっていないというのが現状だが、そこはあえて触れていない。
「ああ、そういえばそうだ。これは気が回らずにすまなかった」
「まあまあ、済んじまったことだ。それより石城んちがカラオケ屋だとは俺は知らなかったよ。へへ、今日のドッジボールの惨敗の憂さ晴らしを、このカラオケでスカッとしようぜ」
ここは両親が個人経営しているカラオケ店の個室だった。山崎は近くにあったデンモクにさっそく手を伸ばして、もう片方の手を黒田の肩にポンと置いた。
「山崎、僕たちはカラオケをしにきたわけではないんだ。反省会をするためにこの場をお借りした、それをゆめゆめに忘れるな。それに僕はカラオケが大キライだ」
「チェッんだよ優等生ぶってからに。あーそういや黒田は、音楽の授業はとても苦手だもんな。くっそう、せっかく目の前にカラオケがあるのにそれができねーなんて、ムシャクシャとするぜ」
ピンポーン
そのときチャイムが鳴った。
「どうぞ」
俺は個室にあるインターホンに出てそういった。
カチャリッ、
「あのう、失礼をします。お茶をお持ちしました」
ゲッ、お前いたのかよ。
個室に入ってきたのは俺の妹の沙織だった。駅前の商店街にあるこの小さなカラオケ店は自宅と同一なので、出入りは奥で繋がっていて家族の行き来は自在なのであった。
「は、初めまして、、、」
初めて見る山崎に緊張してオドオドとする妹にあんぐりと口を開けた状態の山崎。俺は家族以外に妹を見られることが苦痛だった。なぜならインターホンに出るために立っていた俺と、ドアを開いた妹との身長差はほぼ同等だった。
「なんだよ。お前は出てくるなって常々にいっておいたじゃんか」
「わたしだって嫌なの。でもお母さんがこれを持って行きなさいって」
「しょうがない、それを置いたらさっさと引っ込めよ」
「わ、わかったわよ、、、失礼しました」
妹はそう云ってオシボリと飲み物、茶菓子を置くとそそくさと出ていってしまった。
「おい石城、今のはお前の妹なのか。えらく可愛かったんだけど」
「山崎は見る目ねーな、あんなのが可愛いといっているのか。まあ俺はいつも見慣れているから正直のとこわからんけどな」
「そういやお前、顔の作りは女顔だったな。よくよくみると美人に入るほうの部類だぞ。あーどうりでお前からは浮いた話のひとつ出ないわけだ。なんせ顔面偏差値がとてもいい妹がその基準なんだからな」
「なんで妹を基準にしてるんだよ。だいたい妹なんかは女としてまともに見たことすらねーよ。黒田、昔から付き合っていたお前だったら、この気持ちをわかってくれるよな?」
それまで黙っていた黒田は、俺から話を振られて突然正気に戻ったかのように、
「、、、ハッ、何の話だ、すまん、よく聞いてなかった」
「ほらお前とは小学生のときから、自転車なんかの旅を通して何度も沙織と付き合いがあっただろ。妹を小さなころから見ていたお前が、いまさらに妹を女として見れないって話を山崎にしてやってるんだ」
「そういう話か。と当然だ、沙織ちゃんにはこれまでにやましい気持ちなどこれっぽっちも、一欠片たりとも抱いたことはないぞ」
「だろ。そうかそうか。やはり黒田とはよくわかり会える仲だよな」
俺はこの話に満足して黒田の肩をバンバンと叩いた。
「石城、痛いって、、、あっ」
カチャリ、
「あ、あの」
再び、妹がひょっこりと顔を出した。
「なんだ(ムスリ)、まだ何かあるのか?」
「お母さんが、この個室は1番離れ側にあるから、カラオケするなら歌っていってもいいわよって言伝してきてって。でも黒田くんは真面目で歌いっこないよって私はいったんだけど。黒田くんもこんな騒々しいとこはイヤでしょ。黒田くんもきっと迷惑をしてるわよね」
「い、いやッ! そ、そんなことはないのであります! 自分はだだ大好きでなのでありますから! あ、これはもちろん、カラオケっていう意味でして! 迷惑だとか思ったことは一度もありません! ぜひ歌っていくのであります!」
黒田はいきなり、シャキンとして立ち上がったかと思うと、直立不動の姿勢で一気呵成にしゃべっていた。その勢いに気をされたのか妹は一瞬たじろいでいたが、
「うふふ。いつも黒田くんっておかしな喋り方をするのね。でもカラオケがキライでなくて本当によかったわ。それじゃあ、ごゆっくりね」
妹が手を振って去った後は、すぐに座ればいいのにいつまでも立ったまま黒田はボーとしていた。山崎はこれを見てニヤニヤとしている。
おかしな事でもあったのかな?
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