花散る君は美しい

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「彼女は、ますます美しさが増して、私は女が熟れていくさまを初めて見たんです。やがて彼女から、絵が出来上がったら、彼の故郷で一緒に暮らすと聞きました」    これは、事実だろうか。    僕の絵を見て想起した、即興のフィクションなのではないか。  それくらい、先生に似つかわしくない過去であり、物語だ。 「あんな落ちこぼれより、私と一緒になったほうが将来性があるのに。どうして彼女は、価値のない者を愛するのか、出来損ないのあの絵を愛するのか、理解できませんでした。だんだん彼女自身も許せなくなってきてね……。もう、桜の花も今晩限りだろうという晩、あの二人が逢引していた寺に私も忍び込んだんです。当然のように、二人はいました。桜吹雪に抱かれて、月までがあの二人をささやかに照らしていて、本当に何もかも憎らしかった」    その光景が、容易に想像できてしまった。  そうさせるのは、先生の語りだけではあるまい。  ああ、僕はそこで二人を抱いていた樹を知っている。  彼女が、その映像を「見て」と僕の中に流し込んでくる。
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