花散る君は美しい

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 あの日のことは、今でも熱を帯びて思い出される。    描かねば。焦りとも使命ともつかぬものが、喉の奥でうごめいた。    それから、花が散るまで授業を休んで寺に通いつづけ、拝観時間が終わるまでデッサンを続けた。    あっという間の一週間だった。    濃ゆい淫靡とも思える蕾が全て開き、咲いてしまうと意外にも清純なピンク色の花もやがて散り、その花の湿った嵐の中で、僕は今まで感じたことのない蒸気を自らの中に放出していた。    やがて春は終わる。    最後の花吹雪が僕の描きかけの絵の上で舞い、そして彼女は囁いた。 ――あな、いみじ。  
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