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幻聴でもなんでも良い。
彼女のその静かな賞賛があれば、十分だった。
惑わすように花をまき散らし、沈むように散っていった彼女。
やがて季節が初夏へ移るころ、バイトを全部やめた。
授業は単位が取れるぎりぎりを計算して、後の時間はずっと製作にあてた。
同期たちからは、スイッチ入るのが遅すぎるとか、頭が沸いたとか、いろいろ言われた気がするが、よく覚えていない。
どうすれば彼女を僕のものにできるだろう。
寝ないで考え、たまさか眠ったときに見る彼女の夢に答えを求め、使ったことのないサイズのキャンバスと、得意ではなかったはずの油に手を出した。
今、本村先生が見ているその女性は、僕がようやく見つけた彼女の姿だ。
声しか届けてくれなかったが、今となってはそれだけで十分だった。
「まるでなってない。基礎は大事だと、何度も言ったでしょう」
おっしゃる通りだ。
芸術にも基礎はある。
それを怠ったというのなら、甘んじて受け入れよう。
今日自分が、何のためにここへ来たか。
それを忘れないよう、顎を引いて奥歯をかみしめる。
「私が桜の絵を描かないのは、君も知っているでしょう」
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