花散る君は美しい

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 いきなり色恋の話が出てきて、面食らった。    五十一歳の先生は、紳士的で素晴らしい絵画の腕を持ち、美術だけでなく、音楽、舞台、文学とあらゆる芸術に明るい。  男の僕から見ても端正な顔で、「若い頃は」と言わず今でもかなりモテるだろうと思う。  未だ独身である。    そんな先生の恋の話にぐっと興味を惹かれた。 「ほんの少し年上のひとでね。美しかった。彼女と親しくなりたくて、何度もモデルになって欲しいと頼んだんです」 「学生だったのですか」 「いえ、よく行く店で働いていたひとでした。まあ、そんなのはどうでもいい」    先生の目は、僕の絵を見ているのではなく、絵の中の彼女に惹きつけられて離れないのだと気がついた。 「いつもは洋服なのに、時折こんなふうに和服を着ることがあって、それがよく似合うひとだった。あんなに匂い立つように綺麗なひとは、他にあったことがありません」    
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