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5年前。
「でかい魚入ったよー!新鮮だよ!」
「うちのレタス買ってかないかい?」
客引きの明るい声を毎日のように聞きながら、私はその日も店の看板娘として店頭に立っていた。
ここはレトニア連合王国の最北端にあるカルニオという街だ。広大で綺麗な海に面しており、かつ土壌も豊かなため漁業も農業も盛んな良い街だ。
この街の海にほど近いところにある市場で、私は働いていた。
初めて来た人ならばこの市場をうるさい場所だと感じるかもしれないが、商家の長女として生まれた私は物心ついた頃からずっとこの場所で両親の手伝いをしていたため、この賑わいや活気こそがいわゆる故郷の印であり大好きだったのだ。
野菜、肉、魚など食料品を売る店が大半を占めるこの市場の中で我が家は雑貨を扱っており、その珍しさや品揃えの良さなどから店は客に恵まれていた。
食料を売る方が仕入れなど色々な面で楽だそうだが、私の父はそれでも雑貨を売ることを選んだ。この業界で生きていくにあたって敵が少ないこともそうだが、父が相当な雑貨好きだったことが一番の理由だろう。
「ルカちゃん」
声をかけられ、振り向く。
そこには私の店を懇意にしてくれているお客のうちの一人が立っていた。
その顔を見て、私は顔を綻ばせた。
「八百屋のおっちゃん!ここんとこ見なかったからどうしてるのかって思ってたんだよ。元気してた?」
人の良さそうな丸顔の彼、こと八百屋のおっちゃんは、売り手であるにも関わらず自分が野菜を育てているのかと思ってしまうほど日に焼けている。今に限ったことではない、年中そうだ。
「そりゃもちろんさ。仕入先からなかなかいい野菜がたっぷり届いてよ、忙しかったんだ」
「そういえば送ってくれてたね。美味しかったよ、ありがとね」
談笑していると、店から父が出てきた。
「お客さん、久しぶりじゃないか。最近お客さんが好みそうな商品が入っててね。せっかくだし見ていくかい」
「それはそれは。ぜひ見せてもらうよ」
おっちゃんも、人脈に恵まれなかったから八百屋をしているというだけであって、実際は見ての通りかなりの雑貨好きである。
自慢ではないが、彼だけでなく常連のお客様方は皆私と顔なじみだ。店に来たときは決まって私と話していってくれるし、こちらが向こうの店に行くことがあってもそれは同じ。
厄介な客がいないということはないが、他の店に比べれば少数。本当にうちの店はお客に恵まれていると、私は思っていた。
それから数時間。
日が暮れかかってきて、秋の空が美しい茜色に染まっている。
この辺りは日が暮れると真っ暗になる。そうなると出歩くのは危険なため、夕方には店じまいをする必要があるのだ。
見ると周囲の店の人々も店を片付けようとしている。私のところもそろそろ店じまいの時間だ。
両親もそう思っていたらしく、父が奥に控えていた母を呼ぶ声が聞こえてきた。
しかし、店じまいはあるお客により妨げられることとなる。
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