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18時。
ネオンもなく街灯も乏しい温泉街はすっかり暗くなり、どこかでヒグラシが鳴いている。
俊貴は実家の茶の間でもなく、学習机が置きっぱなしの自室でもなく、蕪木荘の“菊の間”で寝転んでいた。
「馬鹿馬鹿しい。何が幽霊だ!」
わざとそう口にしながら、升目上に並ぶ見事な天井画を睨む。
美里の話はこうだった。
3年ほど前から蕪木荘の宿泊客から「女の幽霊を見た」と苦情が入るようになった。
地元テレビ局やコミュニティ新聞も面白おかしく取り上げ、噂に尾ひれがついて、蕪木荘のイメージはガタ落ちしてしまったという。
『きまって菊の間に泊まった客から苦情が出るのよ』
とても冗談を言っている風ではなく美里はため息をついた。
『なんだよ。女の幽霊なら俺がとっ捕まえてぶち犯してやるよ!』
そう笑い飛ばしたところ、
『私たちが何人の霊媒師に頼んだと思ってるの?ヤレるもんならヤってみなさいよ!』
美里は目に涙をためながら叫んだのだった。
「――出るなら出てみろってんだよ」
呟いた俊貴は目を見開いた。
「俺が成仏させてや――」
ガタッ。
突然、廊下から音がした。
ここは角部屋で、襖の向こうに通路はあるもののその先は非常階段だ。
つまり他の客はこの廊下を通らない。
「おいおい、マジかよ…!」
俊貴は音を立てないように立ち上がると、壁のスイッチで照明を切った。
「!!」
その光景に慌てて両手で口を押える。
障子にくっきりと浮かび上がったのは、人型の影だった。
長い髪を垂らした女。着物を着ている。
――これが菊の間の幽霊……?
「………」
実際にそれを見て胸に沸き起こった感情は、
驚愕ではなく、
恐怖でもなく、
ーー怒りだった。
俊貴はガラッと襖を開け放つと、髪の長いその女を部屋に引っ張り込んだ。
「……え!?」
敷いた布団の上に引き倒す。
長い髪で顔はよく見えないが、色白で若く整った容姿をしている。
「よかった。いくら幽霊でも婆さんには勃たねえからな」
女の尻を引き上げて四つん這いにさせる。
「な……なにするの?」
「アホ!こっちのセリフだ!宿泊料も払わず滞在しやがって!」
裾の合わせ目から両手を突っ込み、太腿を撫で上げる。
「……さすが幽霊。身体冷てえな」
「や……あ!」
悲鳴が掠れている。
構わずたくし上げると、障子から漏れる淡い灯りに、白い尻が浮かび上がった。
「やめ……て!」
長い髪の間から覗く大きな目が潤んでいる。
俊貴はベルトを緩めると、ジーンズから自分のモノを取り出した。
「いいか。これはお仕置きだ」
なぜか異様に元気なソレを、白い尻に宛がう。
「……あれ?ここか?まあいいや」
暗くてよく見えない。
「俺の旅館に手を出したこと、腹の底から後悔させてやるぜ!」
俊貴は片足を立てると、勢いよく腰を打ち込んだ。
「……ああっ!」
女の悲鳴が響く。
「きっつ…!幽霊さんはハジメテか?はは」
ゆっくりと腰を動かしながら、俊貴は笑った。
「でもちゃんと中は熱いじゃん」
「……ッ!……はぁッ……!」
腰を掴んでいた手を、前に滑らせる。
「まさかもうイッた?中、ヒクヒクしてるぜ。幽霊でもイクんだなぁ」
と、指が痙攣する何かに当たった。
「ん?」
「……は……ぁ……」
「んん!?」
俊貴はソレを慌てて抜き取り、壁のスイッチに走って照明をつけた。
「お、おま………人間!?てか……男!?」
着物の合わせ目から覗いたソレから白濁液を垂らした青年が、目に涙を溜めながらこちらを睨み上げていた。
◆
青年は、蕪木荘の3軒先にある民宿望月の一人息子で、望月碧人と名乗った。
「蕪木荘に客を全部持っていかれて。そうでなくてもコロナでうちみたいな小さな民宿じゃ経営が大変で…。
ノウハウをちょっとでも盗もうと旅館を見てたら偶然、菊の間の廊下にある窓のカギが壊れてるのを発見して、それで」
碧人はカツラをとりながら、着物の袖で涙を拭った。
こうして正面から見ても色白で綺麗な顔をしている。
「こりゃあ、間違うわ……」
「え……?」
「いやこっちの話。でもさー、だからって営業妨害していいことにはなんねえだろ」
「はい、すみません」
青年はズビズビと鼻水を啜りながら続けた。
「実はうちの民宿、昔から“出る”って言われていて。専門家に見てもらったら座敷童が住みついてるって言われて。だったら蕪木荘にも同じような噂を流してやれば、客足も減――」
「……おい!」
俊貴は目を見開くと、その華奢な肩を掴んだ。
「お前。今、なんて言った……?」
ーーその後。
蕪木荘と民宿望月は提携を結び、座敷童が出る老舗旅館として、多くの妖怪ファンを呼び込むことに成功した。
それぞれが後を継ぎ、共同経営者となった俊貴と碧人の関係がどうなったかについては、また別のお話。
「あッ…!はぁ……俊……貴さんッ!もっとぉ…!」
……おや?何か聞こえましたか?(笑)
【完】
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