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物心ついた時からここクライトンという下町で母と二人暮らしだったケイト。
半年ほど前に母が病に倒れてから、薬代のためにお隣のパン屋や近所の食堂で働き始めた。家事も一人でこなし、母の面倒もよくみている。
今日も朝食後に後片付けと洗濯をサッと済ませ、母をベッドに寝かせてから次の仕事に向かった。
「おはよう、マークおじさん」
「おはようケイト。お母さんは今日はどうだい?」
「朝食は食べられたわ。顔色も少しいいみたい」
「そりゃ良かった。じゃあ、今日も頼むよ」
マークは食堂を営んでいる。マークの家族総出で働くこの食堂で、ケイトも働かせてもらっているのだ。
「おはよう、カイル」
「おう、ケイト。今日は玉ねぎが多いぜ。泣くなよ」
「うん。頑張る」
カイルはマークの次男だ。長男のライルはすでに一人前の料理人で、味付けなども任されている。十四歳のカイルはまだ見習いの身分なので材料の下ごしらえが主な仕事だ。それをケイトは手伝っている。
大量の野菜をカイルと二人でひたすらカットしたり、焦げつかないように鍋をかき混ぜたり洗い物をしたり。仕事は山ほどある。
「よし、開店だ。二人とも頼むぞ」
店が開くとすぐに客はいっぱいになった。カイルとケイトはホールを忙しく動き回る。それから大量の洗い物をしていると、あっという間に時間は過ぎていく。
二時頃にようやく客がいなくなり、休憩時間になった。
「じゃあケイト、これが今日の賄いだ」
ケイトと母、二人分の賄いを小さい鍋に入れてマークが手渡してくれた。
「ありがとう、マークおじさん。また明日もお願いします」
「またな、ケイト」
ケイトはカイルに手を振って家に向かった。これが二人の晩御飯になるのだ。
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