152人が本棚に入れています
本棚に追加
母の死
「母さん、ただいま。今日はねぇ、玉ねぎが多くて涙が止まらなかったわ」
ケイトは母に声を掛けたが反応が無い。
「……母さん?」
慌てて駆け寄るケイト。母はうっすらと目を開けてケイトを見た。
「お帰り、ケイト……」
「母さん、しんどいの? 今お薬持って来るわね」
戸棚の中から薬袋を取り出し、水と一緒に母の枕元に置いた。
そっと母の背中に手を添えて身体を起こそうとする。しかし、母は全く力が入らないのか身体が重く、一人では起こすことが出来ない。
「どうしよう。寝たままじゃお薬を飲ませられないわ。ちょっと待ってて母さん、カイルを呼んでくるから」
ケイトは急いで外階段を降り、食堂に駆けて行った。
カイルを連れて戻ってくると、母は青い顔をしたまま目を閉じていた。
ケイトはカイルに手伝ってもらって母の身体を起こそうとしたが、母は手を振ってそれを止めた。
「どうしたの? 母さん」
「ケイト……お前に言っておかなきゃいけないことがあるのよ。聞いてちょうだい」
「なあに? お薬飲んでからでもいいでしょう?」
「今言っておきたいのよ、ケイト。お前の父親について今まで話したことはなかったけれど、もう私は長くない。死ぬ前にちゃんと言っておかなくては」
母は掠れる声で懸命に話そうとしている。ケイトは嫌な予感に怯えた。
「母さん、やめて! 変なこと言わないで」
「いいからお聞き。母さんはね、若い頃アークライト公爵家でメイドをしていたんだよ。そして当主様に愛されてね。それでお前が出来たんだよ」
「公爵……?」
ケイトは、母が何を言っているのかよくわからなかった。
最初のコメントを投稿しよう!