シェルダン公爵邸にて

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(ユージェニーの回想)    士官学校時代からブライアンに恋心を抱いていたユージェニー。卒業して軍に入隊した後も同期の仲間として常にブライアンの近くにいた。いつか告白しよう、そう思っていた時、あの戦争が始まってしまったのだ。  ひどい戦争だった。多くの死者が出たし、ユージェニーの部隊も無傷ではいられなかった。だがブライアンの部隊は優秀で、素晴らしい戦績を残していた。 (さすがだ、ブライアン……)  無事に戦争が終わったら絶対に告白しようとユージェニーは思っていた。今は友人としか思われていないけれど、戦争が終わったら軍を辞めて女性らしく着飾ろう。一人の女性に戻って、ブライアンの妻になりたい……。  だが、あの最後の戦いでブライアンは酷い怪我を負ってしまった。危ない状態が続き、このまま死んでしまうのではないかと気が気ではなかった。何日も側で看病し彼が持ちこたえてくれるのを願った。  そしてひと月が過ぎる頃、ようやく彼は峠を越えた。目を覚ました瞬間、あまりに嬉しくて涙をこらえられなかった。どれだけ神に感謝したことか。  しかし、その直後ユージェニーは絶望の底に落とされた。彼は、自分の気持ちに素直になると口にしたのだ。『ブライアンへ、ケイトより』と刺繍された小さな袋を見つめながら。  ブライアンはケイトを愛している。それは薄々感じていた。だが、きっとそれを彼女に告げることはないとも思っていた。ブライアンは彼女が誰かと結婚するまで、何も言わず見守るのだろうと。  なのに、この戦いで彼は変わった。愛する者を諦めるのではなく、その手を伸ばすことに決めたのだ。  
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