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愛する人は、貴方だけ
「ただ今戻りました、お父様」
シェルダン邸から帰ってきたケイト。ベンジャミンとブライアンはお茶を飲みながらにこやかに迎えた。
「おお、ケイトお帰り」
「ブライアンもただいま。留守にしてごめんなさいね」
「楽しんで来たかい、ケイト」
ベンジャミンに、続けてブライアンの頬に挨拶のキスをしてから、ケイトもソファに腰掛ける。
「ええ。ミレーヌも元気そうだったわ。それに結婚にも前向きで、幸せそうよ。本当に良かったわ」
「シェルダン公爵も機嫌が良くてな、ラインハルト王子はいい婿になりそうだと言っておったよ。結婚式はもう少し先らしいがな。まずはアーサー殿下の式が終わってからだと」
「父上、アーサー殿下はノートルの王女とは上手くいっているのですか?」
「うむ。本音のところはわからんが、小さくて可憐な姫らしくてな。美男子のアーサー殿下とお似合いだと言われておる」
「そうですか……良かった」
ブライアンが微笑んだ。左眼から頬に走る傷痕はまだ引き攣っており、笑顔を作るのは難しい。右眼と口元でなんとか表情がわかる程度だ。
この頃ようやくブライアンは中庭を散歩出来るまで快復した。そんな時ミレーヌからお茶の誘いが来たので、久しぶりに行っておいでと二人に言われてケイトは出掛けてきたのである。
「ミレーヌには、ユージェニーを許すなんてアークライト家は皆、頭がお花畑だと言われたわ」
ミレーヌらしい言い方だ、とケイトが笑いながら言った。
「もちろん、ホークスのやったことは許せないがな。ブライアンを愛するが故だと思うと憎み切れない部分もある」
「バーリストンでは献身的に看護をしてくれていたらしいし、ずっと良き友人だったユージェニーだ。新しい場所でしっかりとやり直してくれたらいい」
「そうね。戦地でブライアンを支えてくれたことは本当に感謝してるわ」
ベンジャミンは頷いた。
「そうだ、ケイト。ブライアンの日課の散歩だがな。私が一緒に行くと言ったんだが、ブライアンがお前と、と言って聞かんのだよ」
「父上! 何を言いだすんですか」
焦るブライアンを楽しそうに見ながらワッハッハ、と笑ってベンジャミンは席を立った。
「じゃあケイト、頼んだぞ」
「はい、お父様」
ご機嫌なベンジャミンが部屋を出た後、ケイトはブライアンの手を取った。
「待たせてごめんなさいね、ブライアン。お庭に出ましょうか」
「ああ」
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