愛する人は、貴方だけ

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 ブライアンの歩調に合わせて中庭に出る。ゆっくりと池まで進み、昔ケイトが木登りをした木の下で立ち止まった。 「今日は風が気持ちいいな」 「ええ、本当に」  二人はそのまま並んで、爽やかに吹く風が身体を通り抜けていくのを楽しんでいた。 「ケイト、そろそろ軍に復帰しようと思う」 「もう? まだ早いのではないの?」 「もちろん身体を使うことはまだ出来ないが、内務なら可能だ。こんな身体になってしまい軍を辞めることも考えたが、戦争の経験をこれから先の若者に伝えるためにも戻ろうと思う。幸い、軍からも迎え入れてくれると返事があった」 「わかったわ。あなたがそのつもりなら応援する」 「ありがとう、ケイト。軍に復帰して、生活が落ち着いたら……婚姻届を出そう」  ケイトはブライアンを見上げて微笑んだ。 「嬉しいわ、ブライアン……こんな時が来るなんて夢のようよ。この屋敷に初めて来た日の夜、この庭であなたに会ったわね……あの日からずっと、私はあなたに恋をしていたの」  ブライアンは右手で愛おし気にケイトの髪を撫でる。 「ケイト……いつも明るく可愛いらしかった君が、いつの間にか美しく成長し私の大切な女性になっていた。最初にひどいことを言ったから君に嫌われたとずっと思っていたよ。今さら好きだと言う資格は無いとも」 「嫌うはずないわ。あなたはいつも優しくて素敵な人だった」  ケイトはふふっと笑ってから少し意地の悪い笑みを浮かべて言った。 「でもブライアンったら、いつ、私のこと好きになってくれたの?」  大きな目を輝かせながら背の高いブライアンの顔を下から覗き込む。ブライアンは気まずそうにして、それからほんのりと顔を赤らめた。 「最初にあんなこと言わなければよかったと、何度も後悔したよ。やがてカイルが現れ……自然に仲良くしている君たちが羨ましかった。そして、ケイトには自分は家族としか思われていないと感じていた」 「それは……だって、私もブライアンに妹だと思われていると思って。だから無理に気持ちを抑え、家族として振る舞っていたのよ」 「私がはっきりと君への想いを自覚したのは、アーサー殿下が現れた時だ。あの時初めて、私は自分の心の奥底にある気持ちを知ったんだ」  ブライアンは美しい右の瞳でケイトを優しく見つめた。 「そして、死の淵をくぐり抜けた時、私はもう後悔したくないと思った。君にこの気持ちを伝えよう……いや、伝えたいと思ったんだ。君を愛している、と」  その言葉を聞いたケイトはそっと寄り添い、ブライアンの左手と自分の右手の指を絡ませた。以前より細くなってしまったけれど、大きくて温かいブライアンの手。こうして恋人のように繋ぐことができる日が来るなんて。 「ありがとう、ブライアン。嬉しいわ、ずっと愛してくれていたのね……? 私、今とても幸せよ。ねえ、ブライアンも幸せ?」 「ああ。とても」  微笑みを浮かべたブライアンが少し屈んで、ケイトにそっとキスをした。  二人の髪を、風が優しく揺らしていた。 (完)
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