1人が本棚に入れています
本棚に追加
「もう死にたい……。私がいなくても誰も気がつかないと思うし、悲しむ人なんていない……。あ……親は悲しむか……」
心咲は、大学の入学式が終わると、そのまま校舎から離れた人気がない所を探した。
慣れない大学の敷地内をウロウロしていると、別棟に隠れたように緑に囲まれたスペースが見えた。
真新しいベンチが置かれており、人気もない。
心咲は浮かない顔をしたままゆっくりベンチに腰を下ろしため息をついた。
胸の高さまである絹糸のような黒いロングヘアーをゴムで後ろに一つに束ね黒いスーツを着用している。表情は暗く入学式に来たというよりもお通夜に参列しているかのような雰囲気を呈していた。
短い後毛が春の心地よい風に少しだけ揺れている。
——大学の入学式初日に校内のベンチでこんな事を考えているのは私くらいだろう。
心咲はそんなことを考えながら大きなため息をついた。すると自分の膝に白い物が落ちてきた。
まだ落ちるには早いであろう桜の花が一輪、膝の上でしっかりと自分を主張している。
その桜の花をそっと拾い、顔を上げた。
見上げた先には、大きな桜の花が6分咲きになっている。ここは校舎の影になるのか、他の桜よりも開花が遅れているようだ。
咲き始めた桜の花は、ピンク色というより白色と言った方がしっくりきた。
春の象徴とも言える桜の花は一度目をやると花の美しさに目を奪われ、ずっと見ていられる。
今まであった嫌な事も今考えていた普段なら馬鹿げていると考える真っ黒な脳内さえも、桜の花と同じ綺麗な白色になっていく気がした。
ゆっくり強張っていた表情も少しだけ崩れる。
一日中下ばかりを見ていた心咲は、今日始めて顔を上げた事に気がつく。
それを褒めてくれるかのように、春の心地よい風が吹き桜の花がほんの少し揺れて笑っていた。
昔は、春が来れば何度でも頑張れるようなそんな気がしていた。それは永遠に春が思わせてくれるものだと思っていた。
だが、今年になり思い通りにならない事が多すぎて、意欲だとか新たな気持ちだとかそういうのはもう感じなかった。
心咲は自分に春が来なかった理由を入学前からずっと考えていた。
そして、結論は始まりがあるのは終わりがあるからだとあらためて思った。だから始まらない自分の春は、終われてないからだと思うようになり、終わり=自殺という考えが渦巻いていた。
最初のコメントを投稿しよう!