鬼の子

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鬼の子

 時は昭和。とある町に、鬼の子と呼ばれた少年がいた。  少年の額には上を向く突起が左右にあり、それが角のように見えるため、そう呼ばれ、忌み嫌われている。 「やーい、鬼の子鬼の子!」 「鬼ヶ島に帰れ!」  子供達は鬼の子を囲み、石や小枝を投げつける。鬼の子は口を一文字にし、耐えるばかり。あちこち傷だらけになり、血が出ても、声を殺し、彼らが飽きるのをじっと待つ。  周囲の大人達は見て見ぬふりをするか、汚いものを見るような目で、鬼の子を見るだけで、誰も助けようとしない。  子供達は鬼の子いじめに飽きると、最後に彼を蹴り飛ばし、どこかへ行ってしまった。  鬼の子はふらふらしながら立ち上がると、町の隅にある家に帰った。  鬼の子はこの町の中でも、一際ボロボロで、「この町で1番ボロボロの家に案内してほしい」と言うと、誰もが嫌そうな顔をしながら、この家に連れて行くだろう。  もっとも、そんなものを訪ねるもの好きなど、そうはいないだろうが。  家に帰ると、母親は忌々しげな目で鬼の子をにらみつける。 「もう帰ってきたのかい? 帰ってこなくてもいいのに。これを食べたらはやく寝な」  母は欠けた茶碗に少量のおかゆをいれると、わざと大きな音を立てて置いた。  鬼の子はそそくさとおかゆを食べ、洗い場に食器を置くと、物置部屋にはいる。  鬼の子は家族にも疎まれた。親も最初は愛情を注いでいたが、周囲の冷たい目や態度に耐えきれなくなり、彼をいじめるようになり、名前を呼ぶこともなくなった。  鬼の子としてはせめて手伝いでもしたかったが、「お前が触れると穢れる」と言われ、手伝いも出来ない。物置部屋でじっとしているのが1番だと思ったが、「お前の気配がするのも気持ち悪い」と言われ、夕方過ぎまでは家の外にいるように命じられている。  そのため、日中は外で子供達にいじめられ、家では母に疎まれ、空腹と痛みに耐えながら、物置部屋でじっとする、という日々を送っている。  鬼の子の角が目立つようになったのは、彼が3歳になった頃。世間の当たりが強くなったのも、この頃だった。  父親は角が出てきたのを見ると、真っ先に逃げ出した。そのため、母親はひとりで鬼の子を育てるはめになってしまった。  鬼の子に社会のしくみというものはよく分からないが、女性のほうが稼ぎづらいのは、なんとなく分かっていた。父親が自分のせいでいなくなったことも。だからこそ、母親を憎みきれない。
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