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プロローグ
人を判断するとき、僕は自分の中で明確に2つのジャンルに振り分けている。
“他人”か”そうじゃない”か。この目の前に立っているバイト先の派遣会社の社員さんーー岡さんは”他人”。黒髪の一見気弱そうにすら見える見た目とは裏腹にやり手の30代の男性だ。今はここ数ヶ月の勤務態度をまとめたデータを参考にフィードバックをされている。
「ということで、緒方くん。君の評価だけど、各種派遣先から仕事の手際について褒められています。学生だと伝えたらこのまま就職して欲しいくらいだと言われましたよ」
「ありがとうございます」
「お、後輩〜。やったじゃん。後はそのネクラをなおして前髪を切ることだな」
この雑に肩を叩いてくる派遣の先輩も”他人”。最も、この先輩は女性に優しく女性ウケは良いが女癖が悪いことで有名だから他人のカテゴリ以外に絶対に入れたくはない。
後ろで1つに結んでいる長いストレートの金髪
は見た目の期待を裏切らないチャラさだ。両耳に違うピアスを幾つもつけており、これでも20代後半らしい。愛煙家でタバコが手放せないらしく、いつも煙の香りと女性モノの香水の香りがする。
僕はいつもこのクズ永ーーもとい豊永から前髪を切れと言われているが、切る気はないし、根暗だって直す気はない。
「いえ、良いです。元々こんな性格なので」
「暗いままだとモテないぜ」
「モテなくて良いです」
“他人”から好意を向けられることに特に意味は感じない。とはいえ、良い評価をもらえることで、賃金が上がったり経験の幅が増えることは悪くないとは思っている。
しかし、そんな気分は次の岡さんの言葉で冷めてしまった。
「あ、でも緒方くん。一つだけ、君に関してクレームが来てるんです」
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