戸惑いの太刀魚

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戸惑いの太刀魚

「こんばんは、緒方さん。今帰りですか?」 「......こんばんは」  その日の夕方、アパートに戻ると玄関のポストの前で女性に声をかけられた。彼女は隣の部屋に住んでいるOLの冴島 里依さん。ふわふわのウェーブのかかった髪の一部をサイドテールにしている彼女は、144cmと小柄で小動物のような見た目をしている。僕と目が合うと(正確には前髪のせいで合っていないが)彼女は少しタレ目がちな目で笑顔をつくった。  彼女は会社帰りなのかスーツ姿のまま座り込んでダイヤル式集合ポストの前で鍵を回している。 「......。」  くるくる、くるくると鍵を回している。中の荷物を取り出す様子はないし、ポストの蓋もあいていない。  おそらくはポストが開けられなくなったとかそういうオチだろう。 「鍵番号わからなくなったら契約書に書いてあるから」  僕は最低限の助言をしてそのまま階段へと進む。僕達の部屋があるのは3階で、他の住人に会いたくない僕は1階のエントランスに長居はしたくない。  しかし、里依さんが困ったように動かないので、その場に結局戻ってきてしまった。 「......どうしたの」 「番号はわかるんですけど、その」
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