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(焦がすとか滅多にしないのに)
本来であればふかふかの白い身が食べられたはずが、少し両端を焦がしてしまったため身が縮んでしまった。干物を連想させる少し硬めの魚の身はお世辞にも手放しには喜べない。
付け合わせの筑前煮などに手を取られてタイマーをかけるのを忘れてしまっていたのが悔やまれる。
「珍しいですね緒方さん、未知の生命体だと流石に腕が鈍りますか」
「気が抜けてた。今度弁償する」
「べ、弁償とかは良いですよ! 大袈裟です」
悪かったとは思っている。太刀魚はそこそこ値が張るし、きちんと調理すれば本当に美味しい。食べきれなかった部分はぶつ切りにして保冷剤と共にタッパーに詰めているので、里依さんでも後日簡単に調理できるようにはした。
問題は、目的を果たしたにも里依さんが帰ってくれないことである。彼女の厄介なところは隣の部屋に住んでいるため、夜道も終電も何一つ気にしないところだ。
つまり、彼女が満足するまで僕の部屋に居座ることがある。
「あ、あの! さっきの件、力になりますよ! 私、伊達にいつもお世話になってないので!」
「......。」
僕は食器を洗うことで里依さんの追及を逃れたい。しかし、里依さんはここ1ヶ月で何度もうちに来ているせいか、手際良くお皿を拭きながら僕に話をさせたがっている。
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