戸惑いの太刀魚

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「え、えっと、人生経験は少ないですが、生きた時間は長いので!」 (五月蝿い) 「私にも恩返しさせて欲しいです!」 (ほっといて欲しい)  バイトでの嫌なことはなるべくプライベートには持ち込みたくない。僕にとってバイトは生きる力を得るためと、生きていくお金を稼ぐためにやっていることだ。”そんなもの”に生活を振り回されるのは本末転倒な気さえしている。  それに何よりも。 (里依さんにこんなことで動揺してるなんて知られるの、格好悪い)  知られたくなくて顔を合わせずに居たかったのに、何もかもが台無しである。だから、僕の答えはこうだ。 「冴島さんが気にすることじゃない」 「......緒方さんがそこまで言うのなら」  里依さんは不貞腐れたまま、お皿を食器棚にしまった。日頃料理を教えている成果もあってお皿の場所も覚えたらしい。  と、思いきや、いつの間にかフォークと白いお皿を取り出して何かをセットしている。 「? 今日は僕デザート作ってないけど」 「あっ、今日は会社の人からいただいたパウンドケーキがあるのでデザートに一緒に食べましょう!」  彼女は時々非常に強引である。  そして後から思えば、僕はこの場面で彼女を帰すべきだったのだ。
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