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「えっ?これって…桃で…あっちがリンゴ?」
季節がごちゃ混ぜなの?
「そうだね」
気候や土壌の事情がわからないから納得するしかない。桃もリンゴも立派に実っているんだもの。
キョロキョロとする私をゆっくりと導くように歩いていたラースは足を止めると、手を伸ばしてリンゴをもぎ取った。彼は小ぶりの真っ赤なリンゴをシャツにクイクイッと擦り付けてから
「かじってみる?」
私の唇をリンゴでつつく。リンゴの香りがほんのりと私の鼻腔をくすぐり、私は口を開けた。カリッ…シャリッ…皮から実に歯が入るとさらに甘酸っぱい香りがして、モグモグすると少し酸味のある香りの強いタイプの果肉と果汁が口いっぱいに広がる。
「ラース…幸せな香りと味だ…美味しい」
「僕が生まれた時に植えられた樹なんだよ」
「記念樹?」
「そう…うん…ちょっと酸っぱいね」
「果汁がたっぷりで美味しい」
「ユリアの方が美味しい」
「…どうもありがとう?」
恥ずかしいのににやけてしまった…と思った時、遠くにある一番大きな木の枝に座った爺さんと目が合った気がした。
[完]
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