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どきどき
「ユリア?まだ具合が悪いのか?」
私の緊張した声と様子にラースが長身を屈めて私を見た。
うん?私の声ってどんな声だったっけ?私は由利亜で、ユリア嬢が亡くなる時に私がびゅーんって来て…由利亜がユリアになって…私が確かめようと右手を目の前に持ってくるとラースの手もついてきた。
この小さな、誰にも気づかれないようなホクロは確かに由利亜のものだけど…この体は…胸が大きくなった由利亜でなくユリア嬢のもの?頭が混乱して胸にキュッと手を当てると、ラースの手もついてきたので、私がラースの手を握りしめている格好になり
「ぁああぁぁ…ごめんなさいっ…何でもないですっ」
と、どきどきしながら大嫌いな虫を払うように彼の手を払った。
「ああ…それも…悪気はなくて…ごめんなさいっ」
「ユリア、大丈夫。落ち着いてゆっくり息を吸ってごらん?無理やり晴れたような空だけど、上を向いてゆっくり深呼吸して…大丈夫、大丈夫」
ラースは私の深呼吸に合わせてゆっくりと背中を擦ってくれる。そして私が落ち着いたのを見計らって
「何か心配事?記憶が戻らないと心配事ばかりだよね。赤ん坊が何も知らないのとは違う…知っているはずのことがわからないのは怖いと思うよ。何でも言って、ユリア。必ず力になるよ」
とても穏やかに、彼が言った‘無理やり晴れたような空’をゆっくり時間を掛けてクリアな空にしていけそうな音色を響かせた。
「…ラースの執事さんは執事学校卒業?」
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