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ラースに案内されるように建物を目指すのだが、何故か私の手は爺さんと繋がれている。
「今日は揉み足りんのじゃな」
こそっと私に言う爺さんの視線は私の胸にあるので、彼が自分で前を向いて歩けない原因は私の胸かと理解する。
「それは何とか出来る残回数。それより…頭が…記憶が混乱したように思う時があるんだけど?」
ラースから少し距離を置くようにして聞いてみると
「あり得るじゃろうな。心配せんでも、ちゃんと新しいユリアが出来上がる過程だと思えばええ。ここで必要な記憶と知識だけで生きていける。無駄に前の世界と比べて悲観的になることがないから、好都合だと思えばええ」
爺さんは驚きも迷いもしないで応えた。ポイヤックさんが開けてくれた大きな扉の中は石の建物独特のひんやりとした感じがする。
「ラースのおじいちゃんのおじいちゃんってことはライラたちのおじいちゃんのおじいちゃん?」
「それは違うよ、ユリア」
ああ、そうか…父方と母方で分かれるか…ややこしい。
「ユリア、どうぞ。ここで食事にしよう」
ラースが招き入れてくれた部屋は、大きな窓が庭に面している。そして窓に寄せた半円のテーブルをおしゃれなチェアが4脚で囲んでいた。
「半円でも大きなテーブル…素敵」
「気に入った?どうぞ、掛けて」
ラースが引いてくれたチェアに腰掛けた私は何かが視界に入って顔を上げる。
「爺さん…あれ…何してるの?」
「昼寝だろうね。僕たちが花を愛でるのを邪魔してるよね」
そう言ってラースが笑うのも分かる。だって爺さんは花壇の真ん前に大の字になっているのだから。
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