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コンコン…
「ユリア、入るよ」
ラースがドアを開けると私は彼をそっと手招きした。大の字で眠る爺さんのベッドの隣で、小声でラースを見上げる。
「ねぇ…ラース…」
「どうかした?」
「…爺さん…ちょっと前に寝たんだけど…このまま起きない気がする…」
「ああ、そんな雰囲気を感じるんだね?それなら噂通りどこかに行ったんだと思うよ」
「ここにいるのに?」
「目覚めても話をしないんじゃないかな」
「そういうことか…」
「僕たちにもはっきりとは分からない存在で、そういう人はほんの稀にいる。でも悪い人たちではないんだ。理由があって生き続けているんだ思う。さあ、ユリアの部屋へ案内するよ」
「…急にごめんなさい、ラース。迷惑ではない?」
「大歓迎。それより、ユリアの心が…穏やかであって欲しいと思う」
ラースは私の手を遠慮がちに握ると‘いい?’と許可を乞うように私を見つめる。ドッキューン…ハイ、反則。遠慮がちな星降る瞳と、正反対の力強い手。
私はドキドキを隠し、自然な動作を心掛けようと意識し過ぎて、ノロマな首を突きだした不細工な頷きを繰り出した。
それを見たラースは何を思ったか、私の手にキスをしてから廊下へ私を導く。あぁ…きっと彼は私の手は湿っぽいと思っているね。手を繋ぐ度に汗ばんでいるもの。
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