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健全なデート
ヨシュアを乗せてきたパトカーから、昨日のパブで鉢合わせた上官達が姿を現す。白髪交じりの彼らは、軽く咳払いをすると「後は若い者達に任せましょう」と意味不明な事を言い出した。
「ヨシュア様を丁重にご自宅にお送りするように」それだけを言い残し、去って行く。
――昨日と同じ展開やんけ! 意味合いが真逆だけど!
強引に運転席に座らされた7。彼はブスッとした顔でバックミラー越しのヨシュアを見た。長い足を組んだお坊ちゃんはご機嫌だ。サファイアブルーの瞳を輝かせ、口笛を吹いている。
「で、どちらに行かれるんです? ご自宅ですか?」
「デート、というのをしてみたい。そうだな、映画はどうだ?」
「俺はスラム街育ちなんでね。ヨシュア様の行かれるような映画館は知りませんよ」
「私も知らない。だからお前を選んだんじゃないか」
――何が言いたいのか、サッパリ理解できねえ。
ヨシュアの言葉に首を捻った7が、パトカーのアクセルを踏み込んだ。ダウンタウンの外れにある映画館へと車を走らせてゆく。窓からの景色を眺めていたヨシュアが『この世の果てに、お前は似合わない』と口だけを動かしていた。
それにしても二人が訪れた映画館は、寂れきっていた。タトゥーだらけの姉ちゃんがガムをクチャクチャさせながら、チケット売り場でTVを見ている。
たった二つしかない上映作品の前で7が腕を組んだ。
一つはいかにもヨシュアが好みそうな、血がドバー! 首チョンパー! 内臓ドボー! なスプラッターホラー。もう一つは、笑ってくださいと言わんばかりのアットホームコメディ。
スンッとした顔で隣に立っていたヨシュアは、コメディを選んだ。『チケットを買う』という概念がないらしく、そのままスタスタと中に入ってしまう。
ガラの悪い姉ちゃんが「ちょっと!」と言いかけたので、7が慌てて札を出した。チケットを二枚、投げてよこされる。
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