健全なデート

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「トロイの伝統に則って? 通称って事になってます。戸籍がないのは、アダムの子と一緒なんで。でも、婆ちゃんがつけてくれた名前なんですよ。ラッキー7から取った名前です」   「ふうん、親は?」 「さあ? 見た事ねえです。どっかでくたばってんじゃないっすかね」  ちなみに、これは本編で語られる事のなかった設定であるが。7の実父は、本編主人公キングの養父である。この辺りは別のキャラが大暴走した為、割愛した。欠片のような描写は今も残っている。  それはさておき。  斜め後ろでチュッパチャプスしているカップルが気になりだした7。そんな彼にヨシュアが小さな声で「お前は良いな、自由で」と言った。  ――自由? ヨシュア様の方が、よっぽど豪華な暮らし送ってるじゃん。  怪訝な表情でヨシュアを見た7は、その光景に言葉を失った。  ずっとスクリーンを見つめていたヨシュアの頬を、涙が伝っていた。  映画は丁度、バースデイパーティーのシーンだった。ドジなお父さんに家族達が笑顔でパイを投げていた。パイで真っ白な顔になったお父さんが、大げさに悲しんでみせる。それを見た家族達が腹を抱えて笑う。  7には、笑い所がひとっつも分からない作品だった。が、ヨシュアはそうではなかったらしい。  何処か、遠い場所を見ているような瞳だった。寂しげな横顔に涙が零れ落ちてゆく。  胸を真綿で締め付けられる感覚がして、7は戸惑っていた。先述の通り、7は人身売買された子供ではない。劣悪な暮らしであっても、人並みの感情は抱いてきた。言い換えるなら、それだけの余裕があったのだ。  だからこそ、この感覚についている名前を、7は知っていた。  節くれ立った指でヨシュアの涙を無言で拭う。虚ろなサファイアブルーが、ゆっくりと7の方を向いた。掌に冷たい頬を預ける。 「どうした? 後ろのカップルに影響でもされたか」
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