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神坂海斗がその仔猫と出会ったのは、細かい雨が降る春の夕方だった。
学校から帰る途中の神社の桜の木の下に、まるでマンガみたいに「この子を拾ってください」と書かれた段ボール箱が置いてあることに、気づいてしまったのだ。
中からはかん高い子猫の鳴き声が聞こえて来る。
その必死な鳴き声につられてつい箱を覗き込んでしまったことを、海斗は後悔することになる。
子猫とばっちり目が合ってしまった。
子猫は、その青色の瞳で全力で訴えかけてきた。
ミゥ!ミゥ!
桜の木が雨をさえぎってはいたけれど、葉から落ちる雫がポタポタと子猫と段ボールを濡らしている。
子猫の痩せた身体に灰色の細い毛が濡れて張り付いているのが痛々しかった。
海斗は傘をさしかけて子猫をひとまず雨から護ったものの、途方に暮れてしまった。
これからどうしよう?
実は猫なんて好きじゃない。
世話したこともない。
かと言って、猫を飼ってくれそうな友人も--というか友人自体がいなかった。
このまま置いていけば、誰かが通りかかって拾ってくれるかも知れない。
都合のいい予想が海斗を楽な方へと導く。
--よし。見なかったことにしよう。
海斗は段ボールの上にせめて濡れないようにと傘を置くと、くるりと踵を返す。
子猫の声を振り切るように雨の中に走り出した。
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