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海斗は少し離れた場所から耳を澄ましてみた。
鳴き声はしない。
箱の中が見える距離まで近づく。
子猫は寝ている?
海斗はすこし緊張しながら箱の中を覗く。
--中は空っぽだった。
あぁ、よかった……。仔猫は誰かに拾われたんだろう。
安心と同時に、少しだけがっかりしている自分に気づいて、海斗は苦笑いした。
拾ってくれる人がいて、子猫が幸せならそれでいいじゃないか。
そう思って立ち去ろうとした時、微かな声が聞こえた気がした。
慌てて周囲を見回すけれど、仔猫の姿はない。
空耳、かな。
そう思った海斗の耳に、今度はさっきよりもはっきりと聴こえた。
ミウ!
海斗は声のした方に駆け出した。
「どこにいるー?」
声をかけながら、木の陰や草の陰を這いつくばるように探す。
たちまち手足が泥だらけになる。
--ミウ!
声がした方を振り返ると、視界の端で何かをとらえた。
草の茂みに埋もれるように、地面の上に赤黒いかたまりが見えた。
海斗の心臓が、ドクン、と嫌な音を立てた。
それは確かにさっき見た子猫だった。ただし、あまりにも痛々しい姿に成り果てた、子猫だった。
ぐったりと横になった子猫のグレーの毛を、まだ新しい赤い血がべったりと濡らしていた。
一瞬、海斗は我を忘れた。
傘を放り出して駆け寄る。
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