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本当ならば、三月の上旬には出発する予定だった。
今年の初めに仕事を辞めて、二月の末日にアパートを引き払って、そのまますぐに出発するつもりでいた。そのつもりでいたのだけれど、旅支度、身辺整理を終わらせるのに予想以上の時間が掛かった。
小説や映画では思い至ったその瞬間に、その日のうちに、自分探しの旅とやらに旅立つ主人公もいたりするけれど。あれはさすがに無理があると、どこまでもフィクションだと言わせてもらいたい。
一人の人間が忽然と姿を消すなんて普通に事件だ。周囲への影響を抑えるためには最低でも一ヶ月は掛かる。
無理があるからこそドラマチックで、だからこそ物語になるということなのかもしれないけれど。
急ぐ旅──逃避行だっけ?
でもないので、出発が遅れたことについて特に思うことはない。
昨夜車中泊というものを経験し、夜の冷え込みを痛感した今となっては、むしろ出発が遅れてよかったと思う。
後部座席を手前に倒しきって、その上に寝転がるようにして眠った。寝心地がいいとはお世辞にも言えないものだった。身体中が痛い。
まあそれでも幸いなことにというか、ありがたいことに、ここのパーキングエリアには銭湯が隣接されていて、お湯に浸かることができた。軋んでいた体は、かなりましになった。
入湯料は500円。リーズナブルなワンコイン。少しの間お世話になろうと思う。
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