四月

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4/3 「旅の目的」  この二日間は、ずっと本を読んで過ごしている。早い時間に銭湯に入り、身体と脳をさっぱりさせてから休憩室で読書をするのは気持ちがいい。  この旅に目的地ないと前に言ったが、一応、一冊でも多くの本を読むことを目標にはしている。  本なんて家で読めばいいと、そう思うかもしれないが、しかし本というものは、家にいるとなかなか読む気のしないものだ。  アパートを引き払う前に、部屋の蔵書整理をした──蔵書整理だなんて格好つけてみたけれど、七割が漫画で、残り三割のうち二割が小説、一割が実用・趣味といった具合だった。  七割を占めていた漫画は、全て読んだ覚えがあった。  しかし、それ以外の本はほとんど開いてさえなかったと思う。  僕は決して本を買うだけで満足してしまう人間ではない。本は読んでこそだと思っている。  けれど、スマホでソーシャルゲームをしたり、パラパラと漫画を眺めている方が娯楽としては手軽だ。週に二日しかない休みを使って活字を追うということに、どうしても二の足を踏んでしまっていた。  まあだから、そういった娯楽がない環境に身をおくことで、読書に集中できるのではないかという企みがこの旅にはある。受験生が段ボール箱にゲーム機やら漫画本やらを詰め込んでクローゼットの奥にしまい込むのと同じだと思ってもらっていい。  そしてこの企みは、ここ数日の日程を振り返ってみる限りにおいて見事に成功している。  スマホを開く時間は、日記を入力するとき。それもあらかじめノートにまとめた内容を打ち込むだけにとどまっている。  最初はスマホの充電を大切にしようと思ってのことだったが、これを機にスマホ依存を改善しようと決めた。  僕は高校生の頃からスマホを持っていた世代ということもあって、生活の基盤にスマホが根付いてしまっている。  周囲の人間と比較して、特に依存しているつもりはなかったけれど。どうやら日本人の七割がスマホ依存との調査結果があるらしいので、周囲の人間と大差がないということは僕も類に漏れることなく立派なスマホ依存ということだろう。  だから日記だけではなく、日々の予定やメモ書きなんかも、全てアナログの方法で行うとそう決めた。  その甲斐あって、インクの減りがやたらと早い。たった三日で新しいボールペンのインクを使い果たしてしまったほどだ。  文字を書くときは、フリクションの消えるボールペンを使うと決めていた。しかし、このままだとインク代だけで、月に千円を越えてしまいそうな勢いである。あのペンは消せるメリットがある代わりに価格が高い──銭湯に二度も多く入れてしまうではないか。  だからそんな妙なこだわりは捨てて、おとなしくシャープペンシルを使おうと、そう思った。
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