逃避紀行

四月

4/6　「ビスクドール」

　旅立つ前、ビスクドールを買った。
　元々、人形が趣味だったわけではなく、何もわからないまま姿形と価格だけで選んだ。というか、購入した今となってもビスクドールが何なのかよくわかっていない──フランス人形とは別物なのだろうか。

　買った理由としては、一人旅に行くのに孤独を感じ、話し相手を得るため──なんて理由ではもちろんない。
　被写体を得るためだ。風景を写真に残すとき、その写真を特別なものにするために、どうしても必要だった。

　ネットで画像検索をすれば、日本中の景色をいつでもどこでも簡単に見られる時代。わざわざ足を運び、自分のカメラで撮影したところで、その写真は唯一無二のものにはならない。同じ地点から同じ角度で撮影した写真が世の中には溢れている。
　その写真を自分だけの一枚にするためには、風景に写り込める存在が必要だ。

　それなら自撮りをすればいいだろうと、そう思うかもしれないけれど、僕は自分の容姿が好きではない。だからビスクドールを買った。
　製作者は若月まり子さん。一般的なドールとは一風変わった繊麗なデザインに一目惚れした。