海苔屋高校の栄光

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海苔屋高校の栄光

「一年生エースの神谷信二が、マウンドの上で躍動する。さぁ、優勝まで、アウトあと一つ」 テレビ中継のアナウンサーの声のボルテージが上がる。 「神谷第五球を投げた。スライダー、バッター打った。引っかけた打球がサードに転がった。サードこのボールを拾い上げて一塁へ送球。アウト! スリーアウト! 試合終了!」 マウンドの神谷の元に、明石海苔屋学園高校のメンバーが駆け寄って、人差し指を天高く掲げ、喜びを爆発させる。 全国高等学校野球選手権大会において、県勢十五年ぶりの優勝をもたらした一年生エースの神谷信二は、この瞬間、県民だけではなく全国民のアイドルとなった。 翌日からは、どこに出かけるにも【マスク】をして、出来るだけバレないように気をつけたけど、パパラッチ化した追っかけギャルたちは、神谷を見つけるとその姿を【カメラ】に収めようと躍起になっている。 そんな神谷に対し、幼稚園からの幼なじみで大親友だったはずの僕は、ただただ醜く歪んだ嫉妬心に囚われていた。 あっちは将来プロ野球で活躍どころか、もっと上のメジャーリーグを目指していると言うのに、こっちは将来の夢も目標もないまま、ただ進学するための【塾】通い。 夕飯はいつも塾から帰ってからなので、学校から帰ると軽く何かを胃袋に入れてから塾に向かうのが僕の日課だった。 今日は冷凍庫から、【ピザ】を二切れ取り出して温め、親戚の叔父さんから貰った明石海苔を振りかけたそれを食べてから塾に向かう。 塾が終わって帰宅していると、座敷スタイルの高級焼肉店から、神谷の家族が出て来るのと鉢合わせた。 「よぉ!」 僕に気がついた神谷が、爽やかな笑顔で手を挙げる。 こっちは冷凍ピザと、明石海苔だったっていうのに、そっちは高級焼肉かよ。 そう思ったら、憤るよりも虚しくなって、何か話しかけて来ようとする神谷に、軽く手を挙げるだけで、僕はすぐに小走りにその場を逃げ出した。 神様は不公平だ。 むこうは世間から令和の【怪物】なんて呼ばれて持て囃されているというのに、こっちは塾に通っていても三流私立大に合格できるかどうかという落ちこぼれっぷり。 ――許せない。 そしてこの日を境に、僕の歪んだ嫉みは、間違った方向へと舵を切り、僕自身もそれを止められなくなってしまった。
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