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「あれ、今年は花見やらないんですか?」
「そりゃあ……言わなくてもわかるでしょ」
ぎこちなく笑いながら言葉を濁すするめ。
「なるほど。病院に運ばれたくらいならお構いなしだけど、死んだらさすがにまずいってことですか」
「山本くん、声が大きいよ」
もともと小さな声をさらに潜めて言うものだから、ささやき声よりもよく聞こえない。
「それに、去年誘ったとき君は言ってたじゃないか。桜は嫌いだって。だから花見がなくなってよかったでしょ」
その言葉に吹き出してしまった。あの言葉を大真面目にとらえたのか、言い訳と知った上での冗談なのか。するめのことだ、きっと前者だろう。
去年ならともかく、今はばかる必要はもうない。遠慮すべき相手はもういない。
だから、言ってやることにした。
「何言ってんですか。自分、桜は好きですよ――」
するめの顔が、笑顔のままに引きつった。しなびたするめが、ふやけてぐちゃりとしたするめになった。
「あいつと見る桜が嫌いなだけで」
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