0人が本棚に入れています
本棚に追加
私達の子供は、天国に旅立ってしまった。予期せぬ交通事故にあってしまい、カナエはわずか3年の人生に幕を閉じた。突然のことで、その大き過ぎる悲しみに耐えきれず、夫のユウと毎日毎日泣き続けた。
お願いします神様。何でもするのでカナエを私達に返してください。
毎日毎日祈った。そうでもしないと崩れてしまいそうだった。
ある日の夜、夢を見た。その夢には悪魔が出てきて、私にこう話しかけた。
「お前の望みを一つだけ叶えてやろう。」
私の望みは、ただ一つ。
「娘を、娘のカナエを生き返らせて!」
「いいだろう。ただし条件がある。」
「条件?いいわ。教えて。」
悪魔だからやはり命か。カナエのためなら私の命なんて惜しくない。
「このたまごを孵化させることだ。」
「え!?そ、それだけ!?」
「なんだ、意外そうな顔してるな。」
「いや、悪魔だっていうから命とか要求してくるのかと思って。」
「今は命より、俺はこのたまごが孵化するときのお前たちの顔を見るほうが楽しみなんだよ。まぁいいや。とりあえずこのたまごを孵化させろ。そしたらお前の望みは叶う。」
そう言うと悪魔は姿を消した。
翌朝、目が覚めると、枕元に1つの両手で抱えられるくらいの大きさのたまごがあった。悪魔は夢じゃなかった。
「それ、本当だったんだ。夢だから嘘かもしれないと思ってた。」
「え?ユウどういうこと?」
聞けば、ユウも昨日私と同じ夢を見たそうだ。そして私と全く同じことを願ったらしい。
「じゃあ、本当にこのたまごを、、」
「ああ、このたまごを孵化させればカナエは俺たちのところに帰ってくる。」
それから私達はたまごを温め続けた。ユウが仕事のときは私が、私が仕事のときはユウが温めた。
けれど、待てど暮らせどたまごが孵化する様子はなく、気がつけば悪魔の夢を見てから1年が経とうとしていた。
「あの悪魔に騙されたんじゃないのか?」
「そうかもしれないわね。」
「もうやめるか?こんなこと。もしかしたらたまごの中身は、怪物かもしれないぞ。なんせこのたまごは元々悪魔のものなんだからな。」
「確かに、その可能性もあると思う。けれど、私はまだやる。カナエが生き返るなら辛くても怖くても何でもするって決めたんだもの。」
けれど、私の中にもあの悪魔に対しての不信感はつのっていく。こんなことしても、カナエは生き返らないんじゃないかと。
そして今日も私はたまごを温めていた。温めながらうとうとしていた、その時だった。
ピキッ ピキピキ ピキピキピキピキッ
とうとうたまごは孵化した。
私は声を上げて喜んだ。しかし、たまごの中身は空っぽ。私は声にならない悲鳴を上げて絶望した。
もうカナエは帰ってこない。二度と会えない。あの悪魔に騙された。悲しみの中にいる中、何となく庭に目をやった。
「えっ!?」
そこには砂遊びをするカナエの姿があった。私は靴も履かずに外に飛び出した。
「カ、カナエ?カナエなの?」
「ママ!見て見て、泥団子作ったの!」
「本当にカナエなの?」
「ママ、何言ってるの?私はカナエだよ〜」
その瞬間、無意識のままに私はカナエを抱きしめていた。
「ママ、何で泣いてるの?」
「ご、ごめんね。何でもないの。おかえりなさい、カナエ。」
ユウも帰って来るなりカナエを抱きしめて泣いていた。
その日は1年ぶりに家族3人そろってご飯を食べた。久しぶりに暖かくて優しい、幸せなときだった。
その日の夜、夢を見た。あの悪魔が出てきて、私にこう話しかけた。
「たまご、孵化したようだな。」
「えぇ。おかげさまで。カナエも帰ってきたわ。」
「本当はもっと早く孵化できるように頼んでいたんだがな。上の連中は頭が固くてな。」
「え??」
「あぁ、こっちの話だから気にするな。とりあえず、娘が生き返ってよかったな。大切に育てろよ。」
そうして目が覚めた。あの悪魔はたまごを孵化させることで私の望みを叶えてくれたのだ。そして、ユウもまた同じ夢を見ていた。
朝食を家族みんなで食べているとき、突然カナエが喋りだした。
「私ね、たくさん寝てたんだよ。そのときにね、知らないおじさんが出てきてね、パパとママのところに帰りたい?って聞いてきたんだよ。」
「それでカナエはどう答えたの?」
「うんって言ったの。そしたらおじさんがね、神様に頼んでみるって言ったの。」
「それでおしまい?」
「ううん。しばらくしたらまたおじさんが出てきたの。そしたらね、パパとママが頑張ってこのたまごを孵化させたらパパとママのところに帰れるよって言ったの。」
私とユウは目を見合わせた。あの悪魔は悪魔じゃなく、天使だったのだ。
「あの悪魔は天使だったのね。」
私がそう言うと、ユウ答えた。
「いや、天使よりもっと上等なものだったのかもな。人一人生き返らせるだけの力があったんだからな。」
最初のコメントを投稿しよう!