チリザクラ

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「えっ? 会えると思わなかった」  桜を眺めていたら後ろから声がした。  振り向くと、今まさに頭の中にいたキミがリアルにいた。 「うわっ! びっくりした!」  当時は肩くらいまでだったのに、腰あたりまで髪が伸びていた。髪色も黒だったのが柔らかな茶色に染まり。デニムにTシャツ姿のイメージしかなかったのに、白いふわりとしたワンピース姿。  そしてあの時よりも美人になっていて。  一瞬で心臓の鼓動が早くなり、頭の中がぐちゃぐちゃになった。 「ねっ、びっくりだね! ねぇ、クッキー作ったんだけど、食べる?」  キミは視線を一瞬ベンチにやる。 「えっ?っていうか、ふたりきりで大丈夫なの?」 「何が?」 「彼、嫌がらない?」 「彼? いないよ!」  微笑みながらキミは言う。  その言葉を聞いて、無彩色だった自分の心がほんのり桜の色に色づいてゆく。  ベンチに座り、クッキーを一緒に食べた。  あの時と味は変わらない。 「めちゃくちゃ美味しいよ」 「本当に? 久しぶりに作ったんだ。ここで、ひとりでお花見でもしようかなって思って」 「そうなんだ……。でも桜、ほとんど散ってるね」 「地面の花びらも綺麗だから、いいじゃん!」  ふたりで桜の木を眺めていたら、ふわりと風が吹いて、最後の花も地面に落ちていった。    本当だ。  花びらの絨毯も、綺麗だな。 「綺麗だね」  花びらの絨毯も、キミも。  無理して嫌いになろうと思っていたけれど。  ――やっぱり、桜もキミも、嫌いになれないや。  
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