3人が本棚に入れています
本棚に追加
「えっ? 会えると思わなかった」
桜を眺めていたら後ろから声がした。
振り向くと、今まさに頭の中にいたキミがリアルにいた。
「うわっ! びっくりした!」
当時は肩くらいまでだったのに、腰あたりまで髪が伸びていた。髪色も黒だったのが柔らかな茶色に染まり。デニムにTシャツ姿のイメージしかなかったのに、白いふわりとしたワンピース姿。
そしてあの時よりも美人になっていて。
一瞬で心臓の鼓動が早くなり、頭の中がぐちゃぐちゃになった。
「ねっ、びっくりだね! ねぇ、クッキー作ったんだけど、食べる?」
キミは視線を一瞬ベンチにやる。
「えっ?っていうか、ふたりきりで大丈夫なの?」
「何が?」
「彼、嫌がらない?」
「彼? いないよ!」
微笑みながらキミは言う。
その言葉を聞いて、無彩色だった自分の心がほんのり桜の色に色づいてゆく。
ベンチに座り、クッキーを一緒に食べた。
あの時と味は変わらない。
「めちゃくちゃ美味しいよ」
「本当に? 久しぶりに作ったんだ。ここで、ひとりでお花見でもしようかなって思って」
「そうなんだ……。でも桜、ほとんど散ってるね」
「地面の花びらも綺麗だから、いいじゃん!」
ふたりで桜の木を眺めていたら、ふわりと風が吹いて、最後の花も地面に落ちていった。
本当だ。
花びらの絨毯も、綺麗だな。
「綺麗だね」
花びらの絨毯も、キミも。
無理して嫌いになろうと思っていたけれど。
――やっぱり、桜もキミも、嫌いになれないや。
最初のコメントを投稿しよう!