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たちまちに時が過ぎ、女はとうとう僕の手を離れ、もっと大きな出版社へ移動することが決まった。
一緒に仕事をする最後の日、女は明日の授賞式に参加してほしいと僕にせがんだ。
ここまで有名になったのは僕のおかげだと微笑んだ女は大層別嬪で、満ち足りた様な表情を浮かべる。
僕には女が鵞鳥に見えた。
小説という名の金の卵を産む女が、少しだけ羨ましく妬ましい事も事実である。
僕が持ち合わせなかった才能を持つ女は、返事を寄越さない僕を見て不思議そうに小首を傾げると、夜の帷の様に黒く美しい髪を耳に掛けた。
その動作に魅せられた僕は適当に返事を濁し、話半分でその場を足早に立ち去った。
それから真っ直ぐ家に帰った僕は、玄関の扉を閉めるなり熱を帯びた自身が落ち着くのを待ったが、それが出来ない事を本能で悟ると、そのまま風呂場へ向かう。
今日女の部屋で見た全てを瞼の裏から引っ張り出しておかずにした僕は、息が上がっていた。いつも女の小説を読みながら全身を這わせていく感覚に、女の指が僕の竿の先に触れるのを重ねて想像する。
溢れる欲情は止まることを知らず、透明から白濁へと変わった愛情に僕は自嘲した。
それから全身を隈なく洗い、女の家に行くために上機嫌で準備を整えていつもより少し早く床に就いた。
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