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※
エアコンがうなる室内に鈴のなるような電話のコール音。
数量を復唱する同僚の声を聞きながら茉莉は受話器を片手に書類にペンを走らせる。
顧客の本日の話題は――孫の夏休み。
『そぉなのよ、もう小学生で――』
弾むような声に楽しみにしている様子が目に浮かぶ。
(明日から帰省してくるのかぁ。息子さんたちもお盆休みなのね)
メモを取る手を休めて、相槌を打ちながら視線を向けたのは空の額縁。
クレパスで塗りつぶしたお絵かきのような空に綿菓子のような雲。
射るような日差しが目に痛い。
「――はい。3つですね。ご注文ありがとうございました」
最後に数量を確認して見えない相手にお辞儀をする。
相手が通話を終えたのを確認してから受話器を戻した。
きつい日差しに往来は閑散としている。
青葉が作る木陰に身を寄せるようにして日傘の花が流れていく。
「これ、お盆明けの発送分です」
書き終えた伝票を部長に差し出してペットボトルを引き寄せた。
労う声を聞きながらキャップをねじ切って甘ったるい紅茶を喉へ流し込む。
「そういえば、茉莉ちゃん家ってお化け屋敷だったわよね?」
「――――っ!?」
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