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 ――ここには神様のお家だから勝手に入っちゃダメだよ。  諫めるような声に慌てて周囲を確認する。  ゆるい風に乗る青い匂いが肺を満たしたが、求める姿はない。  少し不安になって、声を張り上げた。 「だれ?」  誰何(すいか)の声に鈴のような声が降って来る。  ――ここだよ。 (……上?)  手のひらで庇を作って顎を逸らせた。  高い枝で小さな素足が水面を蹴るように揺れている。 「あ……っ?」  そこは大人が手を伸ばしても届かない。  井戸をのぞきこむように身体をかがめた子供と目が合った。  年齢は茉莉と変わらないだろう。  楽しそうな笑顔がうらやましくて腹が立った。 「どうやってそこに登ったの?」  ――姿が見えるの?  当たり前だ。なのに降ってきた声は驚いている。 「変な子。そんなところにいたら危ないわよ」  むっとして両手を口に添えて声を張る。  ――おもしろい。  刹那、足元から湧き上がった風に木の葉が騒いで土ぼこりが舞う。  たまらず口を結んで目を閉じた。  ――おいで。  間近で声が聞こえて、冷たい手に手のひらをすくい取られた。
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