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「――――!」
驚く息を落とす暇もなく、強い力で引っ張られて身体がつんのめる。
まろびそうになってもおかまいなし。
――こっちだよ。
茉莉を引っ張り、ひざ下まである草をかき分けて幹の反対側に回り込む。
「え?」
異界の入り口のように根元に大きな洞が口を開けていた。
――大丈夫。
「無理だよ、怖い……」
洞のなかは薄暗く、お化けが出そうだ。
――お化けはいないよ。楽しいところへ連れて行ってあげる。
花の咲くような笑顔にたちまち不安は溶けた。
「……少しだけなら」
後ろめたさに言い訳をして、手をつないだまま暗がりに足を進めた。
※
西の空がオレンジ色になったらお家に帰って来なさい。
祖母の声がぼんやりと聞こえた気がした。
(もう、帰らなきゃ)
――もっと遊ぼう。
笑顔の向こうは薄いオレンジ色。
「だめ。もうお家に帰らなきゃ」
首を振ったら――冷たいタオルがずり落ちた。
霞んだ視界に映る黒ずんだ天井。見覚えがある。ここは祖母の家だ。
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