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「仕事が忙しくて疲れてるのかなぁ……」
独り言をつぶやいてぬるくなったコーヒーを喉に流し込んだ。
――でも。
ぎこちなく、後ろを振り返ってみる。
軽く整えたベッド。不安そうな顔が映る姿見。
(お化けなんているわけないじゃない)
一人暮らしの部屋に他人の気配なんてものがあるはずがない。
(まさか、泥棒……?)
芽生えた疑問はそっと刈り取った。
流しにカップを置いて視線を滑らせたのは――冷蔵庫のゴミカレンダー。
13日の火曜日。今日は燃えるゴミの日だ。
夏場はこまめに捨てなくてはならないから面倒くさい。
時計を振り返ると――時刻は8時。
そろそろ出掛ける時間だ。慌てて身支度を整えてゴミ袋をひっつかむ。
カギを取ろうと手を伸ばして――眉根を寄せた。
「はぁぁぁんっ?」
素っ頓狂な声が出てしまったが――カギが、ない。
床に落ちてもいないし、カバンの中にも入っていない。
「こんな時に限って……!」
思わず怒りのスイッチがオン。
このままではいつもの電車に乗り遅れてしまう。
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