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なにげない声に危うく紅茶を噴き出すところだった。
どうにか飲み下して顔を上げるとマグカップを手にした部長と目が合った。
「は……お化け屋敷?」
立地のわりに家賃が安い理由を問われて「訳ありの事故物件だから」と説明した覚えはある。
「クーラーいらずのお化け屋敷なんてうらやましいわ」
余計な尾ひれにげんなりと肩を落とした。
「あれはただの手品ですって。少し変わった人たちが住んでますけど普通のアパートでみんないい人です。お化け屋敷じゃありません」
大事なことは重ねて否定しておく。
「事故物件ってそういうことでしょ?」
楽しそうに問うてくるが――そんなものが出てもらっちゃ困る。
「住む人が長続きしないってだけでそういう事故は起こってないそうですよ。霊感もないし幽霊も見たことがないので大丈夫です」
茉莉の隣の4907号室の住人は――自称雪女。
触れたビールの缶が白く凍り付いたのを思い出して――すぐさま否定する。
(凍ったのは、手品だ)
料理上手な鬼崎と女子会仲間の深山とは頻繁に交流する仲だ。
揃って嗜む酒量は多めだが、酔って絡まれたこともない。
住めば都――なんて言葉が脳裏をかすめる。
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