たまご、たまご。

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 ***  そのマイカは、なんとしてでも私達をざまぁしたかったらしいの。  とにかく悔しがらせたかったらしくて、それから毎日猫のことで話しかけてきてめっちゃウザくてさ。 「うちのジュリアーナはほんと凄いのよ!あんたらのザコ猫とは大違い!」 「トイレなんか来て三日で覚えたし、マテも一週間で覚えさせたんだから、アタシちょーすごくない?」 「ジュリアーナときたら、必ずアタシが帰ってくると玄関で待ってるの。躾した甲斐あったってもんよねー」 「それで、アタシのとのろのジュリアーナはあんたらの猫と違ってぇ」 「あんたらの猫にはこんなことできないでしょ?やっぱり飼い主が優秀だからぁ」  こんなかんじ。  これが延々と繰り返されて辟易してきた頃、ついに彼女はとんでもない事を言い出したのだ。 「アタシのジュリアーナはやっぱり特別な猫だったわ。だって、卵を産んだんだもの!」 「…………はぁ!?」  私たちは目玉をひん剥いた。猫が卵を産む?哺乳類なのに?ありえないでしょ、フツー。  普段はスルーする私達もさすがに反応してしまった。それを見て、気を良くしたらしいマイカはけらけら笑いながら、饒舌に話してきたんだよね。 「アタシもちょー驚いたっつーか?いやいや、特別な猫には特別なものが宿るらしいわね。うちのジュリアーナはメスだけど、ずっと家に閉じ込めてるからオス猫と交尾なんてできなかったはずなのよ。それなのに妊娠して、しかもお腹に卵があるって言われて。そしたら本当に卵を産んだの、真っ白なダチョウの卵みたいなやつ。産む現場見てなかったけど、お腹引っ込んでたからあいつが産んだのは間違いないでしょうね」  ダチョウの卵。私はテレビで見たそれを思い出して首を傾げた。確かあれ、結構なサイズではなかったか。いくら一個でも、猫の腹に収まるサイズとは思えないし、産めるとも思えないのだが。 「本当に猫が卵を産んだの?」  友達が、恐る恐るってかんじで尋ねる。すると、マイカはその立派な胸を張って言ったのだった。 「勿論よ!アタシが嘘つくわけないでしょ?卵が孵ったら、あんたらにもどんな子猫が生まれたか見せてあげるわ。間違い無く、あんたらの猫なんかより可愛いに決まってるんだから!」  そのあと卵は孵ったのかって?  さあ?  いや、わかんないんだって、私にも。こんな自慢するから、そのうちまたマイカから“卵が孵りましたよ”報告があると思ってたのに、それがなかったんだもん。  もうすぐ孵りそう、中から音がしてる。そんなお知らせが、最後。  翌日以降、彼女は様子がおかしくなった。何かに怯えるように学校に来ては、いつも教室の隅で蹲ってブツブツブツブツ、何かを唱え続けるようになったんだから。  私はそれを、ちょっとだけ聞いた。  彼女はこう言ってたの。 「あれはねこじゃないあれはねこじゃないあれはねこじゃないあれはねこじゃないあれはねこじゃないあれはねこじゃないあれはねこじゃないあれはねこじゃないあれはねこじゃないあれはねこじゃないあれはねこじゃないあれはねこじゃないあれはねこじゃないあれはねこじゃないあれはねこじゃないあれはねこじゃないあれはねこじゃないあれはねこじゃないあれはねこじゃないあれはねこじゃないあれはねこじゃないあれはねこじゃないあれはねこじゃないあれはねこじゃないあれはねこじゃないあれはねこじゃないあれはねこじゃないあれはねこじゃないあれはねこじゃないあれはねこじゃない」  彼女はそれから一ヶ月後、自殺した。家で首を吊ったんだって。何が産まれたのか産まれなかったのか、私には最後までわからなかった。  ……あのさぁ、カスミちゃん。私、カスミちゃんが悪い子じゃないと信じたいから言うけどさ。  カスミちゃん、まさかと思うけど、猫をいじめていたりしないよね?  酷いこと、してないよね?  カスミちゃんの猫も卵を産んだって言うけど、違うよね?  ねえ、お願い。  黙ってないで、何か言ってよ。
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