(その5)1月、温泉旅行にて(2)

1/1
前へ
/53ページ
次へ

(その5)1月、温泉旅行にて(2)

「ふああ、あったまるー」  緩んだ顔で浴槽のふちにつかまっているのは、巽である。のしかかるように南條が向かい合って入っていて、「気持ちいいな」とご満悦だ。二人の両膝の膝頭はくっつきあっており、蛇口が南條の背中を圧迫している。 「……とはいえ、狭いな。巽くん、体は痛くないか?」 「ちょっと痛いけど、大丈夫ですー」  ほわわんとした顔ですっかりくつろいでいる巽。浴槽いっぱいに、みちみちに詰まっていることなどなにも気にしていない。一方の南條は、妻を潰しそうで怖くなったらしい。 「……おれは先に体を洗ってるよ」  そう言って、洗い場に出てしまった。 「ふはー」  巽は両脚を伸ばし、ずるずると浴槽の中に伸びる。自然と鼻歌が漏れ、極楽気分を味わっている。  南條は体を洗いながらそんな巽の顔を見ている。現在、一月なので、洗い場は冷える。黙々と体を洗う南條。顔と頭を洗い、丁寧に髭を剃る。巽は歌を歌いながら(南條がたまに聴いたことのある、巽オリジナル曲の『ハム太くんマーチ』だった)、お風呂を堪能していた。  やがて、交代の時間となる。  今度は南條が湯船に浸かり、巽が頭や体を洗う。ゆっくりあたたまったためと、温泉効果で、震えるほどの寒さは感じない。歌を歌いながら洗髪などが終わり、二人はお風呂から上がった。
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

120人が本棚に入れています
本棚に追加