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(その5)1月、温泉旅行にて(2)
「ふああ、あったまるー」
緩んだ顔で浴槽のふちにつかまっているのは、巽である。のしかかるように南條が向かい合って入っていて、「気持ちいいな」とご満悦だ。二人の両膝の膝頭はくっつきあっており、蛇口が南條の背中を圧迫している。
「……とはいえ、狭いな。巽くん、体は痛くないか?」
「ちょっと痛いけど、大丈夫ですー」
ほわわんとした顔ですっかりくつろいでいる巽。浴槽いっぱいに、みちみちに詰まっていることなどなにも気にしていない。一方の南條は、妻を潰しそうで怖くなったらしい。
「……おれは先に体を洗ってるよ」
そう言って、洗い場に出てしまった。
「ふはー」
巽は両脚を伸ばし、ずるずると浴槽の中に伸びる。自然と鼻歌が漏れ、極楽気分を味わっている。
南條は体を洗いながらそんな巽の顔を見ている。現在、一月なので、洗い場は冷える。黙々と体を洗う南條。顔と頭を洗い、丁寧に髭を剃る。巽は歌を歌いながら(南條がたまに聴いたことのある、巽オリジナル曲の『ハム太くんマーチ』だった)、お風呂を堪能していた。
やがて、交代の時間となる。
今度は南條が湯船に浸かり、巽が頭や体を洗う。ゆっくりあたたまったためと、温泉効果で、震えるほどの寒さは感じない。歌を歌いながら洗髪などが終わり、二人はお風呂から上がった。
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