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(その7)2月、三人はスーパーで(2)
(巽、ぼくも行きたい)
「え? ハム太くんも行きたいの? お外は寒いよ」
(大丈夫。マフラー巻いてね)
「はいはい」
マフラーとは先日、巽が着なくなったスウェットの切れ端で作った、ハム太くんサイズのマフラーのことだ。緑のマフラーで、てんとう虫の小さなボタンをつけてみた。巽は寝室からその「ハム太くん専用マフラー」を取ってくると、首にぐるぐると巻いてきゅっと縛ってあげた。
それを見て、南條が微笑む。
「お、ハム太くんもいっしょにお出掛けか。たまにはお外もいいよな」
(です)
うなずいたように見えるハム太くん。ということで、早速二人と一匹(三人)はスーパーに買い物に出掛けた。
「うーん、タラがきれいだな……。白菜もしいたけも新鮮なものがあったし、おでんはやめて鍋にするか……?」
野菜のコーナーから鮮魚コーナーに回り、真剣に材料を吟味して今夜のメニューを考える南條。横で巽はハム太くんと、いけすの魚を眺めていた。
「鯛だよ~ハム太くん。おっきいね! 神戸港の鯛かなあ? タコもいる!」
(背中、絶対押さないでね!)
「フリ?」
ひそひそと言葉を交わしながら、朝のスーパーを満喫する三人。
結局、夕飯のメニューは鍋になった。おでんは翌日の夜のメニューということになり、帰ってから仕込みをすることに決まった。会計を済ませ、食材をエコバッグに詰めて、買い物は終了。
スーパーの入り口にあるパン屋、<BREAD HOUSE>からいい香りが立ち昇ってきていた。ジンジャーブレッドマンの人形でポップに飾りつけられたこのパン屋さんは、巽のお気に入りである。巽が顔を輝かせる。
「先生、ここのカツサンド、美味しいんだよ! ちょうど出来立て!」
「お、いいな。じゃあ昼はカツサンドにするか?」
「うん! そうそう、この『じゃがばたパン』も美味しいの! あ、ハム太くん、見て。ハム太くんのお友達!」
トレイに上には、チョコレートでハムスターの顔を描いたパンが並んでいた。白くもっちりとしていて、可愛い。それに、美味しそうだ。ハム太くんが覗きこむ。
(可愛いねえ)
「美味しそう……。でもハム太くん、おれと先生に仲間を食べられるのは嫌じゃない?」
(……ちょっと嫌)
「だよね」
先生は笑って、「違うパンを買って帰ろうか」と言ってくれる。
そこで巽はカツサンドと『じゃがばたパン』、南條はカツサンドと『じゃがばたパン』とツナサンドを買って帰ることにした。
ハム太くんは、名残惜しそうにハムスターのパンを見つめていた。
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