(その1)12月、二人は結婚式を挙げる(2)

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(その1)12月、二人は結婚式を挙げる(2)

 南條成市郎(せいいちろう)は三十八歳、アルファ。忽那(くつな)巽は二十歳、オメガ。二人はバース性のカップルである。  二人は兵庫県の県庁所在地、神戸市に住んでいる。夫の南條は灘にある継派(つぐは)大学で、社会福祉を研究している教授だ。  ヒート(発情期)のせいで差別されがちなオメガたちが生きやすくなるには、一体どうすればいいのかを研究テーマにしている。環境整備・地位向上・精神的、経済的自立に繋げる方法などを社会福祉の観点から探究しているのだ。元々、南條の実兄の貢治(つぐはる)がオメガで、兄がオメガ差別を受けていたため、こんな世の中を変えたいと奮起して今に至った。  妻の巽は定時制高校の一年生。十九歳になるまで、オメガ差別を恐れた祖父母の手で自宅に軟禁されて大きくなった。南條と知り合ったのは十八歳のときで、彼が家庭教師として巽の先生になってくれたのが、出会いのきっかけである。そのとき巽は生まれて初めて、祖父母と通いの家政婦、そして主治医以外の人間と知り合った。南條を前に、もっとこの人と仲良くなりたい、という感情を覚えたのだ。  家庭教師の南條に対する憧れは、巽の中でやがて「好き」「お嫁さんになりたい」という感情に変化していく。  そして十九歳を迎えた巽は、南條と二人暮らしをはじめる。自立したかった巽が南條の協力を得て、育ての親である祖父母に掛け合って二人暮らしが実現した。初めて外の世界に出たのはこのときだ。  そんなふうに二人暮らしをしているうちに、巽は自分の思いを南條に告白。色よい返事が返ってきて、二人は恋人同士になった。一年の交際期間を経て、この度ゴールイン。  そして巽は今や、定時制高校に通い、友達もでき、近所のスーパーのお総菜売り場でバイトしたりと、充実した毎日を送っている。  南條はアルファらしい恵まれた上背(一九〇センチ)と、筋肉の鎧を纏う逞しい肉体を持つ男である。その顔は厳つく、アルファ特有の灰色の双眸は傭兵が操るナイフのように鋭い。黒い短髪や太い鼻梁に締まった口元、左目の上の傷痕も威圧感たっぷりで(ちなみに傷は兄をかばってケンカしたときにできたものだ)、初対面の人間には「カタギじゃない」「若頭」と陰口を叩かれることもしばしばだ。  そんな南條、実際の性格は温厚で紳士である。優しく、声を荒らげたことは一度もない。怒らないし、怒りを上手くコントロールできる性格である。常に冷静だが包容力の塊で、妻の巽を包みこんでいる。  巽は一七〇センチと、男性の平均身長には少し足りないながら、顔が小さく華奢な体格のため、南條曰く「モデルさんだ」とのこと。さらさらの黒髪に夢見がちな茶色の大きな瞳、小さな鼻にふっくらした唇の、平凡ながら愛らしい容姿だ。なにより透明感が溢れ出している。そんな巽は男の子の格好も女性っぽい格好も似合ってしまう、ある意味ジェンダーレスな人である。  性格は純粋無邪気で天真爛漫、優しい男の子だ。そして、スパダリ体質の南條に甘えさせてもらい、ますます甘え上手となっている。
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