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(その12)5月、秘密のクリームソーダで(2)
「先生って、なにが好きなんですか? 食べ物とか、映画とか……」
せめて共通の話題を見つけ、仲良くなっておこうという魂胆である。巽はしばし考え、
「キムチ鍋が好きです。映画は『二〇〇一年宇宙の旅』。あ。あと……」
巽はうっすらと頬をそめた。もじもじ、とストローの空袋をいじる。
「お、おれとのえっちは好きかな、やっぱり……」
「!?」という顔をする学生二人。それはそうだろう。今まで、「南セン」と「性的なもの」を結び付けて考えたことは、一度もなかったのだ。巽はもじもじしながら、さらに大胆告白を行った。
「『巽くんの体じゅうに痕をつけるのが好きだよ』って、先生が言ってくれたんです。『おれは、噛み癖があるんだ』って……。先生、優しく噛んでくれて、それで先生もおれもすごく興奮しちゃうの。おれも噛まれるのが大好きです。先生はおれに噛み痕をつけながら、ベッドの中で指に指を絡めてくれて、唇を……」
「……すみません! ごめんなさい! それ、おれたちが聞いちゃだめなやつです! 奥さん、このことは忘れて、南條先生には言わないでくださいっ」
学生二人は青ざめて、走って逃げていった。コーラの缶を残したまま。
置いてけぼりの巽はぽかんとして、悪いこと言っちゃったかなあ、と悲しくなった。
――先生のことを苦手だと思っているみたいだったから、こんなに素敵な人なんですって伝えたかったのに……。
巽は缶をゴミ箱に捨て、そのまま研究棟に向かい、夫の研究室に入っていった。南條はデスクにいて、専門書を読みながらパソコンに向かっていた。巽の顔を見ると、うれしそうに笑う。
「あれ、どうした? 巽くん。そうか、今日は『オムライスの日』か」
夫に抱きつきながら、「先生はこんなに素敵な人なのに」と考える巽。それでも、学生たちとした会話は秘密だ。
「オムライス、今日もとっても美味しかったよ、先生!」
笑って答える巽だった。
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