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(番外編)サイン会で(1)
※こちらの掌編は、エブリスタの別ページで連載している「天使は作家と朝寝がしたい」の作家×秘書(坂木先生×せいちゃん)とのコラボです。
「天使は作家と朝寝がしたい」をご存知なくても、こちらの掌編はお読みいただけます。
坂木先生&せいちゃんにご興味をお持ちいただけた方は、よろしければ「天使は作家と朝寝がしたい」もよろしくお願いいたします!
◯
南條巽は、おでかけ前から早々に緊張していた。
用意した「差し入れ」をもう一度確認し、財布の中身を確認する。お小遣いは昨日下ろしてきたばかり。鏡を見て髪を整える。やっぱり切ってくればよかったな……と思いながら、夫がくれた、ハムスターの飾りがついたヘアピンで前髪を留めた。準備万端だ。
「せんせー、準備できたよ! 先生は?」
「おれもできたよ」
と、夫、南條成市郎の声。南條はリュックを背負い、巽の背中をそっと押した。
「じゃあ行こう、巽くん」
二人は顔を見合わせて、うなずきあった。
そして南條夫妻は、繁華街三宮にある大型新刊書店を目指したのだ。
本が並ぶ空間を抜けたところに、作家、坂木倫太郎(さかきりんたろう)のサイン会会場がつくられていた。整理券をもらい、二列に並ぶファンの人々。みんな手に、新刊の『永遠に向日葵を』を持っている。新刊を買うことがサインをしてもらう条件で、巽も先ほど夫といっしょにゲットしてきたばかりだ。
ものすごい行列の最後尾に並び、巽のそわそわが加速する。
「すごく並んでるね、先生。サインもらえるかなあ」
「確かにものすごく並んでるな。でも整理券をもらったし、たぶん大丈夫だとは思うが……」
巽はファン層を観察してみる。中高年の男性が多い。硬派な文体と作風が受けるのかもしれない。だが、女性もけっこういる。巽はこそっと夫に囁いた。
「この前映画化された『天使の側近』、女性にものすごく人気だったんだって。本もベストセラーなんだよ。おれも、坂木先生には珍しいロマンチックな作風で夢中になっちゃった。坂木先生、新境地かなぁ?」
「そうだな。おれも読みながら、巽くんに恋したときのときめきを思い出したよ。今も可愛くてときめくけどな」
「せ、先生ったら〜!」
こっそりいちゃつく南條夫妻である。笑いあっていたら、ふと、「秘書さん、今日はいるかなぁ?」と話し合っている女性たちの声が聞こえてきた。
いちゃいちゃしつつも観察を終えた巽は、バッグの中をもう一度点検する。
「差し入れ……ちゃんと入ってるよね……」
「お、巽くん。列、動いたぞ」
最前列から、きゃーっと女性たちの歓声があがった。巽は期待と緊張のあまり胸を押さえて、深呼吸をひとつ。
「おれ、坂木先生のお顔、知らない。どんな方なのかな?」
「お会いするのが楽しみだな」
そんなことを話し合いつつ、二人の順番がやってきた。
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