(その2)12月、結婚式が終わった夜に(1)

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(その2)12月、結婚式が終わった夜に(1)

 ここはホテルの最上階にあるスイートルーム。ふかふかのダブルベッドに腰を下ろした巽は、ぼんやりと虚空を見つめていた。 「どうした?」  スーツのジャケットを脱ぎながら、南條が笑って尋ねる。巽はほうっと息を吐いた。丸みを帯びた頬が染まり、夢見がちな茶色の瞳はしっとりと濡れている。 「……いいお式になったね、先生」 「ん? そうだな」  ワイシャツにスーツのパンツ姿になった南條が巽の隣に腰を下ろすと、巽はスーツ姿のまま、またまたほうっと息を吐いた。先生のほうを振り向き、 「大好き!」  と声を大きくする。南條は笑って巽を抱き寄せた。逞しい腕にすっぽりとおさまり、巽は幸せを噛みしめている。結婚式はとても素晴らしかった。夢のようだった。二人でした入念なプランニングが大成功し、式は感動的でドラマチックだった。  先生のかっこいいタキシード姿。その格好で、巽の腕をとったり、唇を重ねてくれたり。それだけで感無量なのに、お色直しで南條の兄夫妻からサプライズが。先生に片思い中のときによく見ていた夢に出てくる、レースのドレスをプレゼントしてくれて、身に纏うことができたのだ。夢が現実になったと涙が溢れた。  それに、結婚式、二次会共に大勢の人が来てくれて、南條と巽の門出を祝ってくれた。南條の両親、兄夫妻と娘の夏葉(なつは)をはじめゼミの学生や同僚、上司、友人たち。巽の側の列席者は祖父母と、ずっとお世話になっていた通いの家政婦の水谷(みずたに)さん、それに忙しい合間を縫って来てくれた主治医だった。さらに元総理大臣を務めた祖父は顔が広く、政界や財界などから大勢の客が訪れて、ちょっと異様な雰囲気となった。  それでも華やいだ雰囲気は巽にはうれしく、なにより自分たちを祝福してくれるそのあたたかな空気感に感激しっぱなしだった。  そして、今。先生と巽は二次会を終え、式を行ったホテルの最上階にあるスイートルームで、初夜を迎えようとしていた。
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