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(番外編)1月23日は先生のお誕生日
お読みくださる皆様、応援してくださる皆様、ありがとうございます。いつも励まされています。
今回は2024年版・南條先生生誕祭として書いたものを掲載させていただきます。
よかったら、お祝いしてあげてください♪
『あなたに捧げるプレゼント』
そういえば、誕生日だなぁと南條成市郎は思う。
一月二十三日。今日で四十路だ。おじさんだな、いやいやとっくにおじさんにはなってたか、と内心笑いつつ、起き抜けすぐに抱きついてきた妻、巽の背中に腕を回した。
「お祝いの言葉、ありがとう、巽くん」
巽は夫の分厚い胸にぐりぐりと額を押しつけて、
「先生、ほんとにほんとにおめでとう! 今夜はね、先生の好きな晩ごはんにするからね!」
可愛い笑顔で宣言してくれるものだから、南條も朝から幸せな気分だ。
「ありがとう。じゃあ、ぶり大根がいいな。……難しいか?」
急に曇った巽の表情を見て、南條は慌てた。巽は、料理を作るのがあまり得意ではない。南條といっしょにぶり大根を作ったことはあるが、それはいっしょだったからできたのだ。
しかし、巽はぶんぶんと首を横に振った。夢見がちな大きな瞳をきらきらさせて、ふんわりと笑う。
「ううん。大丈夫。がんばって作ります!」
楽しみに帰ってきてね、と言ってもらい、南條は巽に任せることにした。楽しみだな、ぶり大根――そう思い、さらにチラッと思ったのは、「キムチ鍋のほうがよかったか?」。
冬の味覚、ぶり大根。南條はぶり大根が好きだが、同じくらいキムチ鍋も好きだ。でも、去年の誕生日も巽くんにキムチ鍋を作ってもらったしなぁ、と思う。しかし、キムチ鍋のほうがぶり大根よりは簡単だ。すると、まるで見透かすように巽が、
「そういえば去年のお誕生日はキムチ鍋にしたね。先生、キムチ鍋も好きだよね! でも、どっちでも作れるよ。おれには遠慮しないでね。ぶり大根だってなんだって作っちゃうから!」
元気いっぱい張り切っているので、南條は本当に心を決めた。巽の手をそっと握って、
「ぶり大根、お願いしていいか? 楽しみにしてるな」
そうお願いすると、巽は両手を腰に当てて胸を張り、
「任せて、先生!」
やる気まんまんである。
その日、南條は午後八時近くになって勤め先の継派(つぐは)大学から帰宅した。会議が予定外に長引いてしまい、約束していた院生の指導もあって、遅くなってしまったのだ。
「今から帰る」と、大学を出るときに急いで巽に電話すると、妻は呑気にこう返事をした。
「うん、気をつけて帰ってきてね~。大根、しみしみで待ってるから!」
帰宅すると、巽はリビングダイニングを飾りつけて待っていた。南條をイメージした狼の飾りや、花を折り紙で作ったり、カラフルなガーランドで壁をデコレーションしたり。百円ショップで買ったと思しき、可愛らしい風船や花柄のナプキンや、小さなケーキのフィギュアもあった。
親友のぬいぐるみ、ハム太くんも折り紙で蝶ネクタイを作ってもらい、賓客として誕生パーティに招待されている。南條は疲れも吹っ飛び、満面の笑顔になった。
「はは、可愛いデコレーションだな。ありがとう、巽くん」
「えへへ、先生に喜んでもらえてうれしいです! ごはん、食べてね。ケーキも買ってあるから!」
そして巽が用意していたメニューは、ぶり大根、レンコンのきんぴら、しめじと油揚げの味噌汁、それにキュウリと白菜の浅漬けだった。
「すごいぞ、巽くん! これ、全部作ったのか!? すごくすごく美味しそうだ」
感激で目を瞠る南條に、巽は得意満面だ。
「ふふ、おれ、がんばりました! お代わりしてね。……あれ? 先生、泣いてる……?」
びっくりした巽の声。その声を聞きながら、南條は片手で鋭い目元を覆っていた。
「巽くん、成長したな……。最高の誕生日プレゼントだ」
「も、もう、先生ったら! プレゼントは他にちゃんと用意してるよ~」
そう言いながらも、巽も泣きそうだ。目を潤ませ、ハム太くんと共に先生に抱きつく。
「改めて、先生、お誕生日おめでとうございます! 先生と出会えてよかったです」
「おれも。おれもだよ。巽くんと、ハム太くんに出会えてよかった」
三人で抱きあった。
出会って、五年。
今年も最高の誕生日プレゼントをもらったと、南條は思った。
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