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(番外編)作家の先生と秘書さんに再会しました
※こちらの掌編は、エブリスタの別ページで連載している「天使は作家と朝寝がしたい」の作家×秘書(坂木先生×せいちゃん)とのコラボ、第二弾です。
(第一弾は「サイン会で」をご覧ください)
「天使は作家と朝寝がしたい」をご存知なくても、こちらの掌編はお読みいただけます。
坂木先生&せいちゃんにご興味をお持ちいただけた方は、よろしければ「天使は作家と朝寝がしたい」もよろしくお願いいたします!
https://estar.jp/novels/26128265
○
「あ……! 『せいちゃん』だぁ」
巽が思わず声を漏らす。大きな声ではなかった。しかし耳ざとく聞きつけて、村瀬清路(むらせせいじ)は素早く振り向く。それから声の主に気がついて、驚いた顔をした。
巽は途端にばつが悪くなった。慌てて謝る。
「す、すみません、『せいちゃん』なんて……。おれ、あなたの本当のお名前、知らなくて」
「……では、『せいちゃん』というのは、どこで?」
クールな眼差しで問いかける村瀬。大型ショッピングモール内にある大型書店の旅行誌コーナーに佇み、鋭い目で巽を見下ろす美丈夫は、巽がおどおどしていることもあり、傍から見たら威圧している雰囲気満載だ。
とはいえ、村瀬は威圧しているわけではない。ただ単に元刑事として、この謎を解こうとしているのだ。
一八〇センチの村瀬より十センチ低い巽はますます小さくなった。しどろもどろで、言う。
「あの……せいちゃん、坂木(さかき)先生と神戸駅の近くのカフェにいたでしょう? サイン会の帰りに。おれたち、テーブルが隣で、坂木先生があなたを『せいちゃん』って呼ぶのを聞いてたんです」
村瀬の表情が、ふと和らぐ。そうですか、と言った。背負っていた黒いリュックを前に回し、名刺入れから名刺を取り出す。両手で巽に渡した。
「村瀬清路と言います。坂木先生の秘書をしています」
巽は震える手で名刺を受け取った。村瀬があまりに美しくて、眼光が鋭すぎて、怖かったのだ。それでも、口の中がからからになりながら頭を下げる。
「め、名刺、ありがとうございます。おれは、南條巽と言います。よろしくお願いします」
村瀬も頭を下げる。二人の緊迫感をたたえたやりとりを、店員や客がはらはらしながら遠巻きに見守っていた。
村瀬は頭を上げると、にこっと笑った。その笑顔に、怯えていたはずの巽のハートが一瞬で奪われる。とても可愛くて、チャーミングだったのだ。村瀬はクールで硬派な見た目からは想像できないくらい、優しくこう言った。
「巽さん、南條先生とサイン会に来てくださったんですよね。覚えてますよ。差し入れにいただいたハムスターもなか、とても可愛くて美味しかったです。坂木先生、夢中で写真を撮ってました」
巽の顔がぱあっと明るく輝いた。緊張によって身を潜めていた無邪気さが、一気に花開く。うれしくて、幸せで、朗らかに笑った。
「よかったです! ハムスターもなか、ほんとに可愛いですよね。おれと南條先生もお気に入りなんです」
「食べるのがもったいなかった」
「えへへ、ですよね!」
と、ここで会話が途切れる。巽は村瀬のクールっぷりに、またもじもじと委縮してしまった。それを知ってか知らずか、秘書の青年は静かに問うてくる。
「今日は、お一人でお出掛けですか?」
「あ、いいえ、夫といっしょです。今、推理小説のコーナーにいると思います。おれは、長野の本を探しに来てて――」
「え? ガイドブックですか? じゃあ、おれと同じだ。おれは、出雲の本を」
「出雲って、出雲大社があるところですよね。わぁ、ご旅行ですか?」
「はい。坂木先生と取材旅行に行くので」
巽の目が輝く。「取材旅行」。素敵な響きだ。夢見がちな巽の表情が、さらにほーっとなる。身を乗り出すように言った。
「素敵ですね、取材旅行。作家さんって、本当に取材旅行、するんですね」
「そうですね。自ら訪ねて行き、その目で見て、体験してくることは大切です。坂木先生は出不精ですが、取材旅行はわりと乗り気になってくださるので、助かっています」
「いいなぁ。おれは、新婚旅行です!」
「え?」
村瀬の表情が微妙に変化した。しかし、巽はそれに気がつかない。明るく続ける。
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